やっさ祭りに70歳の父を誘ったのは、ほんの思いつき。たまには父娘で出かけるのもいいかな、と思ったのだが、
「さあ飯食おうと思って茶碗によそったところだったのに、せかすから食えなかった」
「祭りに行くなら浴衣を着てくるんだった」
父はぶつぶつ文句を言っている。
「はいはい、お祭りなんだから私が屋台で父さんになんかおごるわよ」
父をなだめながら歩く。ぞろぞろ、親子連れが同じ方向めざして歩いている。
懐かしいなあ、このわくわくした感じ。
「うわっなんだこりゃ」
道ばたに落ちていた、何やら赤く丸いものを拾い上げたとたんに父が叫んだ。
「どうしたの?」
「べとべとする」
暗がりで目を凝らして父が取り落としたものをよく見ると、棒のついたリンゴ飴。
差し出したティッシュで指をぬぐいながら、父は「なんであんなものが落ちているんだ」
「ていうか、なんで拾ったの?」と私。
「別に、何だろう?と思って」と父。
やっさ踊りの連にぶつかった。揃いの衣装に熟達した踊り。「やっさ! やっさ!」のかけ声も明るい。次々と連が続く。
「ついて行こう」
最後の連は飛び入り連。気がつくと、父も私も踊りの列に組み込まれてしまった。率いるスタッフに「踊って! 踊って!」と促される。
「踊れったって、おれ初めてだから知らねえよ、ぶつぶつ」
「いいのよ父さん、まわりに合わせて適当に手拍子してれば」
いーちーにーいーさーんーしーいーごーおーろーくー やっさー!(パパンがパン!)
次第に興が乗ってくる私と反比例して、とうとう父は戦線離脱。しょうがないな?。約束通り、屋台で食べ物を買った。タンドリーチキン1個100円。
「辛い!」と言いながら食べる父。あっという間に袋はからっぽ。
「あれ? 父さん、私のタンドリーチキンは? 2個あったでしょ?」
「えっ?(袋を確認しながら)串は1本だったぞ」
串は1本ったって、チキンが2個入ってたらわかるでしょうが?!
「いや、でも小さかったぞ」
そりゃお祭り値段で100円だもん、小さいよ。
他にやきそばとたこ焼きを買った。「どこで食べようか」と言ったら、「母さんへのお土産にしないか」と父。父さんはチキン2個食べたからお腹空いてないでしょうけど、私はぺこぺこだよ?!
「もう帰ろう。足が疲れた、くたびれた。ぶつぶつ」
父が歩き出す。
「これから花火あるよ」
「いい、帰る」と頑固な父。行きのワクワク感は幻想だったのか、それともやっぱり母が同行していないとダメなのか、なんとなくガッカリしてトボトボ歩いていたら、
ヒューーーーーーーーーーーッ パーン!!!
民家の屋根の上に遠花火。
「おお、でかいな」
二人で同じ空を見上げる。
よかったね、父さん。来年は母さんも誘って浴衣で来ようね。
足下には、ちょうど行きに父の拾ったリンゴ飴が光っていた。