【特別連載】おそうじマン日記(その9)

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秋になって涼しくなりました。ある日、ポットや食器を集めに教室へ入ったときのことです。
「いつもおそうじありがとう」
声がしたほうを見ると、ごんた君が頭に手を置いて、照れくさそうに笑っていました。
すかさず、先生が言われました。
「あらっ! 今、いいこと言ったわねえ。誰や?」
すると、教室中のみんなが言いました。
「ありがとう」
「ありがとう」
「サンキュー」
「カップもあつめてくれて、ありがとう」
私はカーッと赤くなり、胸がどきどき、汗がどっ。涙がじわっとわいてきて、みんなの顔がにじんで見えて、誰が誰だかわからなくなりました。あわてて眼鏡をはずして涙を拭き、鼻水もたれてきたので急いで鼻もかみました。
そうしている間にも、ありがとうの声は止みません。もう恥ずかしいやら、うれしいやらで、てんやわんやです。
「みなさん、どうもありがとう」
お礼もそこそこに、そそくさとサンルームに飛んで出ましたが、出入り口とは反対でしたから、みんなが大笑いしました。
だって、あんまり幸せすぎて、もう、どうしていいのかわからなかったのです。
次の日も、その次の日もそのまた次の日も、ばら組の園児たちは、私が教室へ入るたびに大きな声で、
「あ、り、が、と、う」
の大合唱でした。

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秋晴れの日、サンルームのガラスを拭き終えて運動場を歩いていました。誰かに呼ばれたような気がして振り向くと、未満児さんたちがサンルームの窓辺に並んで、私を呼んでいます。
背伸びしても、やっと目までしか届かない子もいますが、もみじのようなかわいい手がいっぱい揺れています。
「ちぇんちぇー」
「せんせー」
「ありがとう」
「ちれいにちてくれて、ありなとう」
「ありがとう」
かわいい声が運動場に響きわたりました。夕日に染まって、顔も手もみんなまっかっか。
私は、うれしさのあまり、あとからあとから涙がこぼれてきました。
思えば、私は自分のことしか考えたことがありませんでした。こんなに幼い二歳児にさえ、人を思いやる心が育っているというのに……。私は、どうしてこんなにしゃべれないのかと情けなく思っていましたが、もう親ゆずりなどと思うのは止めにしました。

十一月。保育園は郵便月間でにぎわっていました。
廊下にあるポストに、園児たちは絵や文字を書いたハガキを入れています。当番さんが郵便屋さんの姿で、ポストから集めて配達しています。
「はーい、ゆうびんでぇーす」
と、私も封筒を渡されました。
中には、水色のカードが入っていて、

しょうたいじょう
かんしゃさいに おいでください
十一月二十二日 十じより
ばしょ ほいくえんホール
ハルせんせいへ
えんじ だいひょうより

と、書いてありました。(つづく)

osouji06.jpg絵・稲葉 美也子