アルゼンチンでの最後の買いもの――Filete Porteño(フィレテ・ポルテーニョ)

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こちらが“Filete Porteño”
7年間住んだブエノスアイレスを離れるにあたり、マイ・ブエノスアイレスを象徴するものをレクエルド(思い出)として自分にプレゼントしようと思い立った。

私にとってのブエノスアイレスは、南米にありながらもヨーロッパ調の街並みのなか、とにかくよくしゃべりよく笑うポルテーニョ(ブエノスアイレスの住人)たちに囲まれてタンゴを満喫した日々だった。牛肉大国だけあって、カルネ(牛肉)を食べる機会(そしてその量)がやたらと多かったのも気のせいではないだろう。

そして、住み始めて以来ずっと感銘を受け続けていることは、金銭的な制約なしに市民みんながレベルの高い文化を楽しめる環境が整っていること。世界中どこでもオペラやクラッシックを愛する人はいるし、サルサやロックンロールを楽しむ人もいるし、グラフィックアートやポップアートをストリートで見かける。それでも、ブエノスアイレスほど「カルチャー」や「アート」というものが(一部の人だけでなく)多くの住民にとって日常になっている街というのは、世界中探してもないと思うほど、ここでは毎日毎晩いつでもどこでも無料のコンサートやイベントが開かれている。

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エスター氏にお願いして、
自分の名前を書いてもらうのが最近の流行り
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フィレテアドール(fileteador=フィレテアードを描く画家)
エスター氏

そして、文化的行事に溢れた街だけに創作・表現活動をしている人も多く、そんな彼らの存在こそが私のアルゼンチン生活のチスパ(刺激)そのものだった。そう思った時、ブエノスアイレスのシンボルアートである“Filete Porteño(フィレテ・ポルテーニョ)”を自分へのプレゼントとして選ぼうと思った。

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「タンゴは悲しい気持ち、フィレテは嬉しい気持ちを表したもの」
という言葉もある。ありがとう、アルゼンチン

フィレテ・ポルテーニョとは、文字や国旗や鳥、花など比較的シンプルなオブジェを原色を使って描き、色同士のコントラストで作品に厚みを持たせる技法を使ったブエノスアイレス生まれの大衆アート。このあと、どこに住んでもブエノスアイレスで獲得した「芸術のある毎日」を失わずに過ごしたい、とアルゼンチンでの私の最後の買い物はこの街を象徴するフィレテ・ポルテーニョに決まった。

旅の途中にたまたま立ち寄った場所に一目惚れし、住むことを決めた。それがブエノスアイレスだった。まさに「直感」が引きつけた縁。時が経てもこの街へのエナモラミエント(恋愛)は続いている。フィレテ・ポルテーニョを見る度に、今でも一目惚れした瞬間の気持ちがよみがえる――。

Gracias, mi querido Buenos Aires.(ありがとう,愛しのブエノスアイレス)