旭湯 –時にはモモンガのように–




デジタルってのは良し悪しだなちくしょうめ。
今回紹介するはずだった銭湯の画像を、デジタルカメラからパソコンに取り込んでいる最中、操作を誤ってそっくりそのまま消去してしまったのだ。
一瞬にしておじゃん。もうすべて嫌になったわけです。
おのれ!と叫びながら、マンションの窓からパソコンを放り投げてやりたくなったわけです。
しかも今回は年末特別企画として、通常の銭湯の5倍の湯銭を払って、総合型浴場というやつに行ってきたのだ。
その分の原稿はすでに書き終えている。
つまりは、写真を撮るためだけけに、再び5倍の湯銭を払わなければいけないということだ。
アホか。

というわけで、急遽別の銭湯を紹介することにしよう。
え〜今回は、三多摩地区は府中市にある、「旭湯」さんにおじゃまいたします。
寒い季節になると一際銭湯が恋しくなるもので、冷えた体をぽちゃんと湯船に沈めると、思わず「幸せだなぁ」とつぶやきたくなるわけで…… ダメだ、動揺して文体が変だ。




さて、今回は「旭湯」である。「旭湯」なんだよ。
なぜ府中にまで足を伸ばしたかと言うと、単に別の取材があったからに他ならない。
「旭湯」はひっそりとした住宅街に建つ銭湯で、コインランドリーと連なるその佇まいは、何ともアナログな風情が漂っている。
これがいいじゃないか。
やっぱり、アナログがいいじゃないか。
入り口に掛かる暖簾を分け入ると、可愛らしい2匹の犬が出迎えてくれる。
犬たちは日夜番台に立ち続けていて、常連客の癒し的存在になっているそうだ。

早速犬たちに湯銭を払って脱衣場に入ると、なんともレトロな光景が眼前に広がる。
冷えた体には熱い湯だ。
洋服をビリビリに引き裂いて裸となり、ガラス戸を突き破って浴場に入る。
ちょっと待てよ。
湯に浸かる前には必ず体を洗えよ。
銭湯には、守らなければいけないルールってものがあるのだ。
近頃はこうしたルールを守らない輩が実に多い。
他客に対する配慮。それが侍の国の“義”ってもんだろうが。
このエッセイで何度も書いているが、銭湯は戦場なのだ。戦場では、身勝手な行動をとった者から死んでゆくのだ。ええな。




見事な島景を描いた奥壁に沿って、ミクロバイブラ、座風呂、深風呂などの浴槽が並んでいる。
床を流れる湯の音。他客が使う桶の音。
目を閉じて湯に浸かると、それまで目に見えていなかったものが見えてくる。
そこで見えてくる光景こそが、今の自分の本当の姿なのだ。
その時のオレにはなぜか、森の中を飛び回る巨大なモモンガの姿が見えたのだった。

『旭湯』 東京都府中市宮西町3-6-2