幸楽湯 –亀三トライアングル–

東京23区内で、「亀」の字が頭に付く地名はいくつあるのか?
知られたところでいうと、まずは葛飾区の“亀有”がある。そして、江東区の“亀戸”。ここまではスッと出てこなくてはいけないよ。さあ、もうひとつはどこかね? 知らないかい? 知りたくもないのかい? 正解は、墨田区の“亀沢”である。
「亀有」「亀戸」「亀沢」を称して、下町の“亀三トライアングル”と呼びますね。いや、本当は誰も呼んじゃいない。
というわけで、今回は“亀三トライアングル”の一角、亀沢にある「幸楽湯」を目指すことにした。

半蔵門線・錦糸町駅を出て、うさぎ跳びで約30分。下町風情漂う住宅街に、今回目指すところの「幸楽湯」はある。
途中、あまりにも腹が減ったので、うさぎ跳びのまま蕎麦屋の暖簾をくぐって、うさぎ跳びのまま天ぷらそばを食べることにした。なにせぴょんぴょん跳ねながらなので、汁が床に飛び散ってしょうがない。落ち着きのない客だと思われるだろうが、こっちだって遊びでやっているわけじゃないんだよ!


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さて、亀沢というのはなかなか渋い町である。いかにも頑固そうな職人たちが働く昔ながらの工場(こうば)があり、玄関の戸を開け放った古い長屋が連なる。路地裏では猫が長くなり、坊主頭の子供たちは、山なりのボールを投げてキャッチボールに興じている。いいなあ、こういうのって。昭和の原風景ここにありだ。

そうこうしているうちに「幸楽湯」に到着。うさぎ跳びで完全に太ももがやられてしまったが、本番はこれからだ。外観は実に質素ながら、館内はノスタルジー溢れる昭和風銭湯となっている。

まずは下足箱に靴を放り込み、男湯の入り口から脱衣場におじゃまする。おっ、体重計が兵田計器製じゃないか!


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マニアックな話になって申し訳ないが、東京の銭湯に設置されているアナログ体重計のメーカーというのは、「TANAKA」「HOKUTO」「KEIHOKU」の三社が大半を占めて、これは東京銭湯の“計器御三家”と呼ばれているのだ。いや、本当は誰も呼んじゃいない。何はともあれ、ここには珍しい体重計が置かれているぞ、と。

浴場の壁絵は、ヨーロッパの早春の山景だ。これもたいへん珍しい。肝心の風呂の湯が、蛍光塗料のように鮮やかな緑色をしているが、いったい湯に何を混ぜているのだろうか? 大丈夫だろうか? いや、そんなことを気にしていちゃダメだ。まがり間違って本当に蛍光塗料だったとしても、知らないふりをして浸かってやれ。ドブンと湯に浸かって、己の体を緑色に発光させてみるのも、一度きりの人生においては大切な経験だ。
両国に近いこの辺りには相撲部屋も多く、ときおり力士たちがふらりとやって来ることもあるという。巨漢力士たちが緑色の湯に浸かって発光している光景というのも、なかなか興味深いものがあるな。