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「なんちゅう持ち方や!」私のおかしな箸の使い方を指摘されたのだ。 顔がカッと赤くなり、いつもの軽口をたたけなくなった。「ほっと、い、て」精一杯、普通の声で言ったつもり。でも、かよわい声だった。いつもの...
父方の祖父は、若い時分、大層なろくでなしであったらしい。 仕事をさせれば、他人の半分の時間で、他人の倍以上はこなすという器用さであったにもかかわらず、ある時突然「俺は歌唄いになる」などと言い出し、ろく...
「ふるさとの訛り懐かし停車場の人込みの中に其を聞きに行く」 そんなふうに詠っていたのは、石川啄木だっけか。 首都圏での生活を始め、もうじき10年になる。地方出身者で溢れている土地のはずだが、その訛りや...
中学校に入学したばかりの頃、私の斜め前の席に座っていた男の子。大きな目とやや尖り気味の口元が可愛らしいが、注目を集めそうなタイプではない。小学生の頃から"ボケ"と仇名される、どこか飄々とした雰囲気の持...
ジャングルジムが好きだった。幼稚園の砂場の横にある、くすんだ銀色のジャングルジム。ひょいひょいとてっぺんまで昇っていって、ちょこんと腰掛け、ひとりきりで空を仰ぐ。きもちいい。もちろん園庭にもジャングル...
「リリーちゃんがナオキ君のこと大っ嫌いって言ってた?」年長組みの教室に、可愛らしい大声が響く。さっちゃん。スモックを軽やかなスキップと共に振り回しながら、満面の笑みでナオキ君に言い放った。あたしはナオ...
高校生活3年間の「恋」戦線は3戦3敗1引き分け、と書いた。すでに「あれ?」と思われた向きもおありだろう。勘定が合わないものね。「1引き分け」の話である。もし獅子奮迅の働きぶりで、それでも戦いを分けたの...
「またかよ」「節操のない!」の声があろうことは覚悟の上である。 相手によって自身の「本質的な何か」が変えられる、すなわち小さくはあっても、人生の一つの精神的分岐点と呼ぶべきを「恋」と規定するなら、これ...
高校生の初恋全3戦のうちの2戦目の話である。 男子はニックネームを「ペンギンさん」といった。 いつもこう...胸を張って歩いている感じ、それがペンギンに似ていたような、それでいつしか「ペンギンさん」...
初恋話しが3度目というのもおかしな話じゃあないか、とはおしゃいますな。 そもそも「恋」なんぞと呼べるものに、そうそう出会うわけはないんである。幼稚園だの小学生中学時代のそれらしきは、あくまでもその予...
育った京都には地蔵盆という慣わしがあった。 夏のお盆の際に集落の中心位置ほどにあるお地蔵様の赤いよだれかけをかけ替え、お供え物をする。子供のためのお盆だ。お地蔵様が祭られている小さな祠は、それでもそ...
「おばちゃん」ってぐらいだから、もとは「女の子」だったのよね。 確か小学校の5年生ぐらいだったかな、おんなじクラスに「さとるちゃん」て男の子がいた。なにさとるちゃんだったか、はて記憶がないのだが、面...