泣いて、笑って、母でよかった

保育・教職従事者、看護・医療従事者は必読。子育て進行中はもとより、経験者、潜在経験者も要読。すなわち全ての人、とりわけ「ディスレクシアって何?」という向きには「是非、読んでください」とお願いしたい。

副題に「読字障害:ディスレクシア・南雲明彦と母・信子の9200日」とある。一人の人間の疾病が「読字障害」と判明するのに、誕生から21年の月日が費やされたのだ。その霧中の9200日を母・信子が回想し、息子・明彦も証言する。筆者は徹頭徹尾客観的な聴き役として徹し、私観を排したスタンスで淡々と記録する。
であればこそ読者はその壮絶な闘いの日々を想わずにはいられない。読みながら何度胸を詰まらせることか。母であった身はつまされる。母の子であれば母を想って鼻水が垂れる。

「なんだかしんどい」「つらい」「生活が困難」しかも苦痛な状態が延々と続く。学校では「怠惰」「逃避」と誤解され、医者に行っても「どこも悪くない」「気のせい」ならまだしも「ノイローゼ」とされ、とどのつまり抗鬱剤まで処方される。

本人も母もそして家族も、「状況」を内側に隠蔽することなくオープンに訴え続けたにもかかわらず、教育現場で係った者、医療者の誰一人として正しい判断や認識ができなかった。それが21年間もの長きに!なんということよ!!

読むほどに疾病そのもの及びそれによってひき起こされる様々な状況よりも何よりも、原因がわからない、それが「疾病」だとわからない状態がどれほど苦悩か識らされる。

21年間南雲明彦が苦しんできた状況は本人が抱える脳器質的な問題「読字障害・ディスレクシア」だと判明したとたん、ひとつの家族が救われた、という事実をしっかり受け止めたい。家族をすっぽり被いこんでいた暗雲は晴れたとはいえ、根本問題解決にはまだ遠い。「病名」が解ったからといって「病気」が治癒したわけではないのだから。にもかかわらず、これほどに「人生」が変わり得るということを。

だからこそ、一人でも多くの人に読んでもらいたい。そして読んだら同じように「読んでみて」と周りに薦めてほしい。
それこそが、ようやく「生き難さ」のいわれを突き止め、今の今から困難な病に真っ向から立ち向かおうととしている南雲明彦に大いなるエールとなるに違いないのだから。


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作者名:小菅 宏
ジャンル:ルポルタージュ
出版:WAVE出版

泣いて、笑って、母でよかった