やっかいな作品。
少々の息苦しさを覚悟した方がいいかもしれない。闇の中を手探りで歩くような閉塞感も味わう。どう終結するのかわからないまま、スローテンポに耐えたりもしなければならない。
銀行勤めのOL。鉄工所のオヤジ。相当にヤバイ系プータロウ。3者のストーリーがサンドイッチで、何の関係性もないまま語られる。
3人3様の状況が、他に選ぶ術もないかにジリジリと悪化へ向かう。
ようやく3人の関係性がチラリ見え始めたことろには、長編648ページの中ほど過ぎまで読み進めてしまっている。読む方もだが、書いたお方もずいぶん辛抱強い、長息可能な丈夫な心肺機能の持ち主に違いない。
ここまでくれば、今度は息も切らず読み進めたくなる。一気に超高速に切り替わるから、その落差で一層ドキドキが増す。
つまり徐々に悪化していった3人の状況が「最悪」に突入する瞬間、3つの最悪が合流して暴発する。
「なんか、もうウットシそうで、ヤダなー」
と思わなくてダイジョーブ!
下水溝に落ち、吸い込まれた管を息を止めて流されて「あー、もー、ダメッ!」ってところでポッと水面に浮上する。その「ああ、助かった!!」感、安堵感。作者はちゃんと用意してくれている。
「仕方ない」とは言い訳台詞だが、果たしてどうなのか。たまたま、偶然「そうなっちゃった」と思える状況も、よくみれば「因」がまかれて「果」が結んだということのほかない。
さらには「必然」と「必然」の狭間には確実に隙間があって、それを正しくつかまえるかどうかで、次の必然の積まれようも変化する。
そういうことが言いたかったんだろうか…
作者名:奥田 英朗
ジャンル:小説
出版:講談社文庫