誰がメインキャストで、何のお話なのか?惑わされてはいけません。あくまでも表題「縦走路」をお忘れなきよう。
2月・厳冬の「八ヶ岳縦走」。紛れもない冬山を「ヤル」ということのなんたるか。厳しくも美しく、少しでも「山」をやりたい気持ちを持つ者なら、限りない「憧憬」をそそられる。行程描写のディテールにのめり込めば、身の程知らずにも、共にルートを行くスリルにドキドキする。
「土台『山』を背景に男と女を書き分けるのは困難」と結論付けてしまうのは性急な気もする。精神力、体力など性差による限界がどこらへんなのか知らずに、もの言うのもはばかられる。
2人の山男。異なるタイプに見えて、読み終わる頃にはスッと一つに重なる妙。
いいよね?山男って。
2人の女。対「男」を意識するあまり読者・女性の腑に落ちないことになってはいまいか?
「山」への憧憬、ひいては生きることへの表現は、男も女も超えた「真実」があるんじゃないか?「山男」のようにスッキリ「山」ヤル女がいたっていいじゃんよ、というちょびっと口をとんがらかしてみたくなりますなー。
その上で、さらに追言を許されるなら、雪の岩場に生息するカモシカのように人もまた単純に「男」と「女」が向き合ってもいいんじゃないか、と小さい声で言ってもみたい。
各々が性差もなく自己完結しなければならない究極の状況でこそ、きちんと自立した互いの前にすくっと立つ。視線の先は同一方向。
これって「理想形」じゃない?とか思うんだが…
作者名:新田 次郎
ジャンル:山岳小説
出版:新潮文庫