リヴィエラを撃て

時は1972〜1995年の長きにわたって背景となる。中国が文革から民主化へ路線をシフト。日・英・米の対中関係の利害と外交政策が絡む。同時期、英はアイルランド紛争に頭を抱える。
政治・経済の裏舞台で暗躍する各国諜報。そして、IRAのテロリスト。ベルファスト、ロンドン、東京と舞台は回り巡る。

我々一般には想像だにつかない壮絶・陰惨・凄惨なストーリーではある。読むうち「裏舞台」の展開が「そんなこともあるかも」と思わせるのは、ひとえに緻密な取材と書き分ける筆力であることはいうまでもない。
恐ろしくヘビーで、かつ活字ビッシリ感もあり、のわりに閉塞感はなく「ダル!」など微塵も感じずにスルスルいける。

主要キャストが次々、激しい陰惨な攻防の末に消される。射撃音と爆発轟音が炸裂する。にもかかわらず、読後の清々しいのはなぜ?
ストリーを通奏するかにピアノの音が聞こえる。ブラームスだったり、モーツアルトだったり、樹々の枝葉を転がる雨滴のように無音の響きが耳にたまり、時にドイツリードの旋律がひそやかに残響する。あたかも血なまぐさいシーンのレクイエムのように。

テロリストの遺児が愛に包まれて無邪気に笑う。一見単純な帰結に求めた作品の意図を汲み取って、読者の胸もまた「愛」に満たされる。


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作者名:高村 薫
ジャンル:サスペンス 小説
出版:新潮文庫

リヴィエラを撃て(上)
リヴィエラを撃て(下)