受精

たとえば船の長旅のお供には是非おすすめの一冊。 
結構なボリュームなんだが、読み出すと止まらないので、船の揺れを忘れる。
下手な酔い止め薬を服用して寝込んでいるよか、よっぽど楽しい船旅になること請け合い!
ちょっと過激なタイトル、カバーのサミングからは熱烈恋愛小説風。だから、のっけからねちっこいラブシーンが展開したりもする。

しかしながら、繰り返される描写の中に一筋、また一筋とセンサーに触れるきな臭さが、読み手を本から離れさせない。

その異質な一筋を踏み重ねるにつれ展開の予測は確信へと固まっていく。巧妙に敷き置かれた「布石」は適度に読者の優越感と好奇心を募らせる。

恐ろしくドラマチックな展開は荒唐無稽とも言えなくはないが、さすがに科学者・医学者・精神科医としての著者の見識に裏打ちされると、結構興味深い刺激となり得る。

ちょうど、鼻水たらして汗をかきかき激辛チゲ鍋をつつくにも似て、「辛い、辛い!」と言いながら平らげてしまう。

もちろん、鍋は辛いばかりではない。新鮮な魚介類や野菜がたっぷり使われてもいる。
先端の医療、精神科医から見通した「悲しみ」の構造、緻密な歴史解釈。
そして舞台は日本からブラジルへ移り、登場人物は日本、日系ブラジル、アフリカ系ブラジル、韓国、仏、独と国際色も豊か。

では、なぜ「受精」鍋なのか?

いや待て、待て。それを言っちゃー、おしめーよー。

あくまでも、独特な手法で読者を誘う著者のミステリー手腕に身を委ねるべし!


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作者名:帚木 蓬生
ジャンル:小説
出版:角川文庫

受精(角川文庫)