これはびっくりな作品。
ちょっとした「はずみ」で友だちを木の上から突き落として殺してしまった幼い女の子が兄とともに、四苦八苦して死体を隠す様を、一貫して「殺された」私が語る。
「殺された」私は「幽霊」のように浮遊して、きょうだいが右往左往する様を上から見ているのではない。確かな存在としてきょうだいと共に「私の死体」の行方を追う。
それがまた、「殺された恨みつらみ」だの「私の死体」に対する「悲しみ」「哀れみ」だの、そういった一切の「感慨」を挟まず、淡々と醒めて逐一観察は冷静。
1人称視点、とか俯瞰(神)視点とか、そんな小説作法の常識を見事にくつがえしてみせた「新作法」にまずは魅せられる。
推移は、あくまでも客観視点で語られ、きょうだいの「ハラハラ・ドキドキ」を直接伝えることはないから、読者は「殺された私」側に視点を持ち、事件発覚の「危うき」に何度もはらはらする。
読んでいるうちは、ちっとも恐くはないのだが、読み終えてつらつら考えるに、「殺した側」「殺された側」の内側をここまで横にのけておいて、話が完了してしまったことに恐れ入る。
長閑な田舎体の舞台設定との妙なバランスというか、コントラストというかとあいまって、後からジワーッと恐くなる。
合編の「優子」も読み終えれば、両作抱き合わせの意味に、まずはうなる。
最新作「GOTH」を産み得た作者の、恐ろしく鋭敏な「豊かさ」が伺える。
何万カラー対応でありながら、モノトーンで語り尽くしてみせる「イジョー」としかいいようのない「力」に圧倒される。
作者名:乙一
ジャンル:小説
出版:集英社文庫