ホテルローヤル

編まれた七話は、書き下ろしの第二話を除いて一話ずつ「小説すばる」に掲載されたもの。第一話は原題が「ホテルローヤル」だったのを後に「シャッターチャンス」に改題したとか。発表当初は以後の七話連作を意識していなかったという。

けれど思うに、かなり早い時期で最終形に至る設計図は構想されていたのではないかと推測する。なぜなら、全七話の時系列は見事に計算し尽くされて順を違えて書かれ、それが故に第七話「ギフト」でページをめくり終えるときの読者の驚きと感動は測り知れない。終結の美しさはあたかも帯締めの「結び目」のようだ。

「ホテルローヤル」は北国の丘上に建つラブホテルだ。「『非日常』を求めて、男と女は扉を開く」とは帯の謳いだが、必ずしもそのキャッチから受けるような、ただただ生々しくおどろおどろしいイメージは決してない。
むしろ淡々として語られ、少しも押しつけがましくはなく、返って表現フレームの外側の広大な原野をも読者は見渡す。淡水画もしくは浮世絵のような独特な写実性。著者言うところの「写実絵画ような」作に上がっている。

――朽ち果てて廃墟と化したホテルが、ある日かまびすしい騒音とともに解体されたかと思えば、ほどなくまた新たにラブホテルが建ち…
は……
ないな、ないない。
ないけどさ……
もうちょっと読み続けたい、そのエーテルに浸っていたいと願ってしまう。

2013年直木賞受賞作。

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作者名:桜木 紫乃
ジャンル:大衆文芸小説
出版:集英社

ホテルローヤル