友人の猛烈なプッシュにより、読むことになった一冊。
「買っていただくのもなんですから」ということで、手渡されたノベルズ版2巻ともに400ページ超、さらに二段組、“新伝奇”という聞き慣れないジャンル。そしてアニメというかゲームっぽい表紙絵、読み始める踏ん切りが付かないまま何気なくパラパラしていると目に入る「魔術師」やら“超能力”風のフレーズ……。
オレの趣味の範疇じゃないぞ、この本は。
そう確信して、「まだ読んでないんですか?」という友人の追い込みにも負けずにしばらく放置していた『空の境界』を、ついうっかり読み始めることになってしまった。そして、こう思ったわけである。
ああ、早く読んでおけばよかった。
もちろん、遅く読んだおかげで損をしたとかではないのだが、いわゆる“ページを繰る手が止まらない”状況になるのならば、すぐ読んで、友人と口角泡を飛ばして感想でも言い合ったほうが有意義だったのは間違いない。
本書は主人公である両儀式(りょうぎ・しき)をはじめ、いわゆる敵として登場するキャラクターの能力なども、家柄がユカリの能力であることなどから「伝奇」というジャンルになるが、取っ付きにくいようならば「ファンタジー小説」で間違ってない(たぶん)。なお、伝奇小説とは民話や血脈、伝承などを下にしたフィクションであり、この部分「民話や血脈、伝承など」が魔法に変わると、ジャンルとしてファンタジーになる。
本書の伝奇にあたる部分は、作者のこれまでの小説やシナリオ作品にもリンクがされているようで、本書を一読しただけではなかなか理解ができないのだが、その部分を魔法(超能力的なもの)に置き換えれば、なんとなく(←これ重要)理解することができる。ある敵キャラは物質の強度にかかわらず曲げちゃう(橋とか)という能力を持っていたが、これを単純に超能力として、主人公と戦っている見方でも問題はない(たぶん)。現に私がそう読んでの感想なのだから問題があってもいまさら困るのだが(笑)、そんな読み方でも充分に本書の魅力は伝わってくる。
主人公である両儀式と、因縁のありそうな黒桐幹也(こくとう・みきや)が歩んだ道に絡むさまざまなファンタジー的要素を楽しんでいただきたい。作者はミステリー小説への造詣が深く、思わぬところに叙述などのトリックが仕掛けられていることなども一興だ。
戦いの場面ではなかなかに凄惨な描写もあるのだが、それによって増幅されていくカタルシスはどこに着地するのか——?
その答えとして、私はこの小説を“ファンタジー○○小説”だと確信している。ま、「そんなことはありません」と言う友人と後日、口角泡を飛ばすことになるわけだが(笑)。
作者名:奈須 きのこ
ジャンル:伝奇小説
出版:講談社文庫