こちらが今回お世話になった6人乗りのセスナ世界遺産である「ナスカの地上絵(正式登録名は「ナスカとフマナ平原の地上絵」)」。今なお多くの謎に包まれているこの広大な模様を見学しようと、母と一緒にセスナに乗った。日本から来てくれた母に日本食や必要なものをあれこれ注文した私だが、このフライトのためにぜひとお願いしたのが日本製の酔い止め薬だ。乗客全員が地上絵を見ることができるよう機体を右へ左へと旋回させるため、ナスカフライトは酔いやすい。すなわち、セスナ酔い予防のためである。
もちろんペルーにも酔い止めは売っている。数年前、初めてナスカの地上絵を見学した時は、ペルー製のものを飲んだ。ところがペルーの薬は概して強力で、眠くなることが多い。この時も薬の成分が強すぎたためか、突然の睡魔に襲われ、そのまま倒れこむように寝てしまったのだ。いったい何が起こったのか記憶にないほどの強烈な眠気で、下手をしたらこのまま一生目覚めることがなかったのではと思ったほどである。
まるでベージュの画用紙に緑色の折り紙を並べたような景色当日の朝。これからグルグルと旋回飛行するのだから、朝食は軽めにと思っていたが、「日本の薬があるから大丈夫」とすっかり大船に乗った気持ちでいたわれら母子。しっかり朝食を取り、フライト直前に薬を飲んで、「いざいかん!」とセスナに乗り込んだ。
この日は風がきつく、目的地に向かう間も機体はよく揺れていた。同乗したペルー人女性はすでに気持ち悪そうにしていたが、薬を飲んでいた私たちは何ら問題なし。どこまでも広がる砂漠に、碁盤の目のように整然と広がる畑の緑。その見事なコントラストに見とれつつ、フライトを楽しんでいた。
地上絵といえばこれでしょう!可愛らしい「ハチドリ」
少し見えにくいが……こちらも有名な「クモ」さあ、地上絵見学の開始だ! セスナは右へ左へとサービス満点で機体を傾けてくれる。母と私は「見えた?」「見た、見た!」とお互い手で合図しながら盛り上がっていたが、くだんの女性はまっすぐ前を向いたまま、窓の外を見ようともしなかった。気の毒にとは思うものの、こうなってしまってはただひたすら耐えてもらうしかないのである。
感動のフライトを終えて空港に戻ってきた私たちだが、実はその後が大変だった。緊張が解けたせいか、このころになって一気に薬の効き目が現れたらしく、猛烈な睡魔に襲われたのだ。もう立っていられないと母子でベンチにうつ伏せになる。「穏やかな効き目」とはよく言うが、これでは遅すぎだろう。この後もしばらくぐったりしたままだった。
セビーチェの上に乗っているのは、
パプリカではなくロコトという激辛唐辛子。
絶対そのまま食べてはいけません
ソースではなく、しょうゆと唐辛子が効いたペルーの焼きそば、タジャリンだらだらとした気分でホテルに戻ったのがちょうど昼時。胃に何か入れれば薬の効き目も抑えられるのではないかと即座にレストランへ行き、新鮮な魚介のマリネ・セビーチェやジューシーな鶏のから揚げ、タジャリンというペルー版焼きそばとビールを注文。セスナではなく薬に酔って、ビールですっきりするというなんともちぐはぐな話だが、こうして楽しい思い出がまたひとつできたのだからこれもまたよし、食事の会話も格段に弾んだのだった。