外は雪。テーブルの上には湯気の立つエルテン・スープ。
オランダの冬が、今年もやって来た。聞きづてならぬこのスープの名前だがエルテン、とはエンドウ豆のことである。オランダに冬の到来を伝えるこの豆のスープは、数少ない蘭料理の代表格でもある。
外国人から、「オランダを代表する料理を教えて下さい」と聞かれれば、まずこのスープの存在を教えることにしているのだが、その理由は、
1 , 作りやすい、 2 , 美味しい、3 , 栄養満点、であるからだ。
まず、作り方は簡単。豆なら実はエンドウではなくても、何でもいい。乾燥豆を使っても、缶入りのペーストでもいい。それをブイヨン・スープに入れて煮る。 味見をして、豆にブイヨンが馴染んできた感じだな、と思ったら、
ここでベーコン(これまた固まりでも、スライスでも、どんな状態でもいいのだが)を入れて更に煮る。ここで、好みの刻み野菜を加えて、また煮る。調理時間は、ここまでで約30分、というところか。
お粥状態になった頃を見計らって、今度は大ぶりのソーセージを切ってその中に入れる。
ローク・ボーストというオランダ産・燻製巨大ソーセージを豪快に入れるのが1番いいのだが、なければフランクフルターでもいい。そして、10分ほど煮詰めたら、味見をして塩胡椒し、出来上がり。スープ皿に盛り、熱いところを食べる。スープは、日本語では「飲む」が、ヨーロッパの”兄弟言語”である英語やオランダ語やドイツ語だと、スープは食べるもの。このエルテン・スープは、正に”食べる”にふさわしい。まず、非常にどろどろしている。
さらっと喉に流し込むのではなく、噛んで飲み下す、という感じだ。
その上、中にはこま切れ野菜やら、巨大ソーセージやらが、沢山仕込んであるから、まずそれら内容物がごっそりとスプーンの上に乗っかってきて、そう簡単に汁だけをささっと飲むわけにもいかないので、「食べる」という表現がまさにふさわしいスープなのである。この一品で充分満腹感が得られるため、添え物として何かを食べる必要がない!というのもメリットで、ケチなオランダ人好みの、経済的なスープでもあるのだ。
かつては、正統派古典オランダ料理として、豆の厳選法から、スープを鍋に入れる入れ方にまでいちいち作法があったそうだが、現在では庶民的で経済的、かつ手軽に出来ることから、どの家庭でも気温が10度より低くなると、このスープがテーブルの上に乗る。
家族全員でスープを囲み、”食べ”ながら、満腹になって、温かい部屋から窓越しに冬を眺めるのが、オランダの寒い季節をエンジョイする1つの方法なのだ。
2008年末から今年にかけて、オランダを直撃している大寒波だが、人々はこの寒さを大歓迎している。過去10年間暖冬続きで、お家芸とも呼べるべきスケートを国民挙げて楽しむ機会が全くなかったからである。家の前の道に水を蒔き、一晩凍らせ、次の朝スケートやそりで滑りながら通勤したり、通学したりする本格的な“オランダらしい“冬が、やっと戻ってきたのだ。更に、村や町のアマチュアを集めて競技を行なう、スケート祭りがオランダ各地で開催され、典型的な冬のオランダらしい風景が戻ってきた。この祭りに欠かせないのが、エルテンスープ。スケート靴をはいたまま氷の上で、あつあつのこのスープをすすると、冬本来の醍醐味が味わえるのである。