冬近し、川に浮かぶ”ほっちゃれ”のサケ

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サケは帰ってくるまでに約4年かかる
約190万人が暮らす大都市、札幌の川にもサケは遡上してくる。道内では人工孵化した稚魚を放流しているところも多いが、うちの近所にある川では自然に生まれたサケが戻ってくるらしい。

サケが上ってくるピークの10月から11月中旬あたり、散歩がてら土手や橋の上からサーモンウォッチングをする人は多い。よく眺めていると、特に川岸そばのくぼみのあたりにはサケが何匹か見える。ときおり水しぶきを上げて、オス同士がメスを取り合ってもいる。いかに自分の命を残すかが懸かっているから、その戦いはかなりダイナミックだ。

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産卵期のオスは体が赤みがかり鋭い顔つきになる
(千歳サケのふるさと館)
初雪が降り、だんだんとしばれてくる11月の終わりともなればサケを見に来る人も少なくなる。このころは、雪が積もる真冬よりもなぜかいちばん寒く感じる時季だ。もうサケはいないかと思いながら川沿いの土手を歩いてみた。すると、意外にも白い魚影が数匹でスーッと泳いでいるのが見えた。

動きにはあまり力がないように見える。おそらく産卵・放精を終えたあとのサケだ。ウロコはほとんど剥がれて、白い皮がむき出しになっているのが痛々しい。サケは川に上がる前から絶食し、体内の栄養分も卵に回されるという。だから、もし食べたとしても身は相当にまずいらしい。地元でも「捨てちゃえ」といった意味の「ほっちゃれ」と呼ばれるゆえんだ。そして、まもなく命を終える(※ちなみにサケを川で捕獲することは禁止されている)。

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ウロコも剥がれて白くボロボロに
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よく見るとあちこちにほっちゃれが
この「ほっちゃれ」を真っ先にねらうのは鳥たちだ。サケの死骸を見ると、ほとんど鳥の好物である目玉がなくなっている。ちょうど私が川の土手を歩いていたときも、中州ではカラスたちがほっちゃれをつついて食べていた。しかし「うめえ、うめえ」という感じではない。人間が出すゴミのほうがよほどうまいのだろう。「まあ、食べてみるか」という感じで、あの太いくちばしを使ってむしり取る。

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一瞬ギクッとするが鳥には目玉がご馳走だ
そこへウミネコがやってきて「寄こせ」と迫る。カラスのグループよりも、どうやらウミネコのほうが強いらしい。カラスは少し離れて見ている。すきを狙って近づくカラスもいるが、またウミネコに追い返される。もっとよく見たくて、私は土手から川べりに下りてみた。カラスもウミネコも逃げるが「なんで来たんだよ、おまえ」という表情を見せる。

私はなるべく警戒心を解くため、目を合わさないようにして座り込む。こちらを意識しつつサケに近づくカラス、私が顔を上げるとパッと逃げた。そんなこんなで20分。「もうアイツはしょうがねえな」という感じでカラスの2、3羽がほっちゃれをついばみはじめた。くちばしでサケの背中をグイッとむしってみたり、つついてみたり。やはりどう見ても、おいしいというふうではない。暇つぶしの「なぐさみもの」といった感じだ。

ほっちゃれは、こんなふうに鳥や動物に食べられるほか、やがて分解してプランクトンの豊富な栄養源となる。自然であれば無駄なくサイクルができているものだ。 川面や水底にはほっちゃれが横たわっているいっぽうで、 101214_01_06.jpg
やってきたウミネコに緊張がはしる
まだまだ産卵行動を繰り広げるサケたちもいる。雪が降り出し、川沿いに散歩の人影がほとんど見えなくなる12月でもそれは続く。

卵、つまりイクラは2カ月ほどでふ化する。川面を眺めても何も変化の見えないような冬に、稚魚たちは水底の岩陰でひっそりと身をひそめている。さらにもう2カ月たつと流れに逆らって泳ぎながら水生昆虫を食べ、春には山の雪解け水に乗っていっせいに川を下る。そしてオホーツク海からカムチャッカ半島を抜け、はるか北太平洋へ……。
気の遠くなりそうな旅。危険もいっぱいだろうけど、また毎年待っているよ、サケ。