開祖!「焚き火道」なり!!

100818_03_01.jpgその男に出会ったのは石狩の海、真夜中だった。開祖開眼の夜。
私の趣味は「焚き火」である。これは誰がなんと言おうと譲れない事実であり、ストレス解消の癒しの時。
それは7月。夏の日の金曜日。私は愛車でトレーラーハウス「抱雪庵」を引いて石狩の海へ到着していた。
帰ってゆく人々とすれ違いながら、銀色に染まり行く海と潮騒へ歩みを進める瞬間が私の鼓動を静かに高めてくれる。

私は「焚き火道」という流儀を開眼している。
それは焚き火の流儀であり、その静かな空間で酒を飲む高尚な「道」なのである。
この道の基本は「砂浜」などで燃焼物を現地調達し、海が暗くなり星が出てきて初めて点火するところにある。

静かな潮騒に浮ぶ夕日が燃え尽き、残り陽が漁火に移行してゆく静寂の時間を見つめて、私はおもむろにマッチを取り出して火をつける。
タバコをくゆらせては目を細め、火の加減を調節しながら拾ってきた木をくべ、ワインを傾ける。この作業の繰り返しを続けていると、海を見に来た家族連れなどが話しかけてくることもある。
焚き火を見ると近づきたい心理が働くのか、皆が両手をかざして近づいてくるのである。
人間の基本動作。 DNAに組み込まれているのだろう。
100818_03_02.jpg100818_03_03.jpg100818_03_04.jpg宵も酔いも深まりつつある真夜中、彼はやってきた。
「お独りでなにしてるんですか?」
齢50を優に超えている年配。威厳があり、背が高く、ナイスガイであった。
「“焚き火道”を少々……」
「?? たっ、焚き火どう??」
「いしょにいかがか? 手ほどきいたしましょう。」
一緒にいた奥方も手をかざして寄ってきた。
「まぁ、いっぱい!」
持ってきた富良野ワインをすすめる。
「焚き火に道があるとは知らなかった」
「そうでしょうとも。私が開祖で、まだ弟子をもうけてはいないのですから……」
「では、開祖。教えてください」

話を聞くと、ススキノでビルをいくつも持っている人らしく、奥様も美人で如才がない。大富豪であろうとも酔っ払いの開祖は気にとめるはずもない。

「山の型、川の型、波の型、谷の型とあるが今日の風は山の型を所望いたしておる。これが山の型だ」
「ほっほぉー、なるほど。」
失礼にも、奥方はこの時点で笑い転げているではないか!
「くべ型にも流儀はござるのか??」
すでに大富豪は昔の言葉になり、ノリノリである。
「左様、これが流転の型!」
マキを回転させながら火に投げ込んだ。
「なるほど! ではこれは??」
今度は大富豪が細い木を数本くべた。
「おおっ! おぬし! さざ波の型を会得しておるのか?」
「さすがは開祖! 拙者もいささか心得がござる!」
「おお! これはこれは是も非もなし!」

酔った二人は……
「そうつかまつるかぁ! ではこれは??」
「おお! それは秘儀中の秘儀なればぁーー!」

…………

3時間。ボトル3本。奥方熟睡。
ふたりの大人は明るくなるまで浜辺で修行を続けていたのだった。

後日、大富豪からススキノへの誘いをいただく。
今後はこちらが弟子になり、「北海グルメ道」の開祖と語る富豪からとてつもないごちそうをいただいた。
「では、これは??」
「おお! それは毛がにの舞にござるかぁ??」
そこでも一晩、続けてしまったふたりであった。

私は石狩に生まれ、石狩に育ち、そして、石狩の海が大好きです。とても美しく優しい海。焚き火をしている私を見つけたら声をかけてくださいね。
「焚き火道を拙者が伝授いたそう!」

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「石狩の海」

太陽にあこがれて この恋を決めたのに
砂を照る想い出は 私の心を焼き尽くす

さよならの夕立が 私の心を冷ますけど
絡みつく砂のよう 私の恋はかわらない

打ちつけて打ちつけて 石狩の浜に消えようと

潮騒はわたしのために 生きる意味をくり返す

濡れそぼる人たちを 陽はきっと照らすから
太陽にあこがれた 私の願いは叶うから