出会って、別れて、また出会って――「中国農民画」

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戸県農民画『婚姻縁』(わが師の作品)
「中国の絵画」と聞いて、皆さんはどんな絵を思い浮かべますか? 色彩は……渋め? 紙は……縦長? そう、墨で描かれた山水画や花鳥図をまず思い浮かべる方が多いのではないだろうか。

私の中の「中国絵画=墨絵」をドッカーンとぶち壊してくれたのが、1999年に中国陝西省で出会った「農民画」だった。文字通り農民に描かれた絵画である。色は何種類もの彩色が入り交じってスーパーカラフル。子供の絵のような大胆かつ自由なデザイン。 紙を埋め尽くすような農村での生活場面、家畜、子供たち。
「生活臭プンプンで、ド派手かつ、どこかのどかで思わず満面の笑顔になってしまうような絵」。
それが「農民画」だった。

修学旅行中に農民画に出会った私は、北京の留学先に戻ってからも農民画熱にうかされ続け、とうとう旧正月の休みを利用して陝西省戸県の女性農民画家への弟子入りしに行った。ホームステイ先の先生のお宅はもちろん農家で、暖房はトウモロコシの皮や茎を焼いて焚くオンドルのみ。オンドルの上で先生一家と5人並んで寝て、毎朝起きると自分が焼きトウモロコシのように香ばしかったのが懐かしい。ついて来る村の子供達とアヒルの行進のようになりながら、村を見て回ったり、お祭りに行ったり、農民画家の皆さんを訪ねたり、絵を習ったり。まるで農民画の中に入ったかのようなのどかな1カ月弱を過ごした。そして北京に帰ってからも研究を続けた。

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わが師が色づけするのもやっぱりオンドルの上
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各家庭の憩いの場、オンドルでくつろぐご近所さん
あれから10年。あんなに熱中した農民画もカナダに住む私にはどんどん遠い存在となってしまった。そんななか、先日里帰りした東京で友人から「農民画を教えている日本人女性がいる」とのニュース。日本ではかなりマイナーだと思っていた農民画を教えている方が!? 
驚きながらも、友人を介してその先生にお会いすることができ、お互いの農民画との出会い話に花を咲かせた。先生は旦那様の企業派遣で住んでいた上海で金山県の農民画に魅了され、帰国してから「日本農民画協会」を設立された行動的な方だ。図々しく彼女の授業にもお邪魔させてもらった私は、戸県の農民画とは少し趣向が違う金山県の農民画を見せていただき、生徒さんが熱心に絵を描く様子を見学した。

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祭りの様子をその場で描く農民画家
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笑顔と赤いほっぺがかわいいお隣のお婆ちゃんと子供
初恋の人との再会のように農民画熱がぶりかえした私は、家に戻ってから自分の農民画コレクションをひっくり返して一日眺めたのだった。
「農民は土地があったらその土地全体に一寸の無駄なく作物を植える。絵も同じことだよ」
農民画のすき間を埋め尽くすようなデザインを老農民画家がこう説明してくれたのを思い出す。絵の隅々まで染みわたった農民哲学。それが「農民画熱」の熱源なのかもしれない。

意外な再会を通して、日本農民画協会の会員にしていただいた私。カナダから農民画熱を蔓延させるべく、どんな事ができるのだろうか。中国文化のビックリな多様性を教えてくれた農民画は、また私に再会の面白さや可能性も見せてくれたのだった。

日本農民画協会ウェブサイト: http://nouminga.web.fc2.com/