3月9日、2年8カ月ぶりに日本へ帰った。すべてが時間通りに動くことや人の多さに懐かしさとめまいを感じながら、長野の夫の実家へと身を寄せた。
今回はリマ滞在時からネット通販でいろいろな買い物を楽しんでいた。短い日本滞在で買い物に追われるのは嫌だったのだ。あれこれ検索してこれはと思うものを実家へ送るのは、なんと楽しい作業だったことか。
小さいくせに頼もしいレッドレンザーV9そんななか、『LED LENSER(レッドレンザー)』なる小型ライトを見つけた。シンプルかつ高性能、ハンディライトやキーライトで有名なドイツ、ツヴァイブリューダー・オプトエレクトロニクス社のLEDライトだ。ペルーの夜は暗く、段差も多い。こんな小さなライトひとつあればなにかと便利だろうと、V9マイクロというタイプを780円で購入することにした。
しかし、口コミ評価で気になったのは電池のことだ。私が気に入ったV9はキーホルダーサイズの小ささ故、電池はLR41というボタン型になる。単3、単4など一般的なものなら問題ないが、ボタン型となるとどこでも手に入るわけではない。しかもペルーは電池が安くない上に、どうも日本製より持ちが悪い。そこで予備電池も買っておこうと通販サイトを検索したところ、50個入り680円という超お買い得なものを見つけた。送料も無料で素晴らしい! こちらも早速注文し、実家へと送っておいた。
震災前は50個680円だったのに、
震災後は4000円という値がついている日本到着の翌々日。東日本大震災が起こった。福島第一原発が破損し、電力供給ができないという。初めて耳にする単語なのに「いわゆる輪番停電」と繰り返すNHKの放送に違和感を覚えながら、どの地区が何時から停電になるのかという情報を必死に求めた。なぜならこの後、どうしても外せない用事があったのだ。
停電初日の14日、私は18時20分から22時までが停電予定だという第5グループ地区へと赴いた。今回の帰国でもっとも大切な用事なので事前に宿泊先も予約してあったし、予定変更ができなかったのだ。夜間停電のため、ホテルでの食事はできない。街のレストランももちろん無理だろう。日中の用事を早く済ませ、停電になる前にコンビニに行かねばと思っていたのだが、予定が押してしまい、とうとう停電開始予定時刻を過ぎてしまった。
漆黒の闇を覚悟していたが、最悪な気分ではなかった。なぜなら手にはあのレッドレンザーがあったからだ。小型ながら頼もしい光を放つこのライトを今この場で手にしているという安心感は、どう表現すればいいだろう。しかも電池は山ほどある。一晩中照らしても問題ないのだ。
建物の外へ出た。普段なら煌々と明かりがついているはずの街は、人出もまったくなくゴーストタウンのようになっていた。とりあえず何か買えないかと、ライトの灯りを頼りにそろそろと駅前へ向かったが、これほど光というものに感謝したことはない。
これだけ照らしてくれれば、暗い夜道も安心だしかし、結果としてこの日の第5グループの停電は回避された。街は真っ暗だったが駅前のコンビニだけは営業しており、ホテルの部屋も消灯されることはなかった。もちろんレッドレンザーがなければホテルに戻ることさえ困難だったが、停電を行なうと言っておきながら実行しないその曖昧さはいかがなものか。それから後はもう皆様ごぞんじのとおりである。
被災地ではまだ停電が続いている地区もあるという。その人々のことを思うと私の体験など取るに足らぬことだが、闇の中で感じた、この世にただ自分だけが取り残されたようなあの心細さはいまだ忘れられない。今はただ、一刻も早い復興を願うのみである。