【乗り物あれこれ】気分はタイムスリップ、大井川SLの旅

蒸気機関車は五感で楽しむ列車だと思う。

先日、初めて蒸気機関車……いわゆるSLという列車に乗車、鉄道の旅を満喫してきた。関東近郊から乗りに行けるSLはいくつかあるのだが、今回は静岡県島田市を走る大井川鐵道へ。静岡県の一級河川・大井川沿いを長閑に走るこの鉄道は、通常各駅停車の普通列車が金谷駅〜千頭駅の19駅を結んでいる。 この路線を週に数日だけSLが1〜2往復しているのだ。

このSLに乗るためにはいくつか必要な準備がある。まずはダイヤの確認と予約。
SLの運休日を確認せずに行ってしまうと、乗ることはもちろん動いているSLを見ることはまずできない。そして観光シーズン……特に桜の春と紅葉の秋は確実に予約をしておかないと乗りに行ったところでSLを見送ることしか出来なかったというオチになりかねない。そしてこの予約の時にぜひ忘れないで欲しいのが鉄道弁当の予約。これがまたSLの旅をさらに楽しませてくれるのだ。

20140331_b.jpg
否が応にもテンション上がるお姿
乗車の当日。大井川鐵道の始発は「金谷駅」(JR東海道本線との乗り換え駅)だが、SLは隣の「新金谷駅」から発車。うっかり間違えないよう気をつけて。

少し余裕を持って新金谷駅に到着すると、すでにSLが白い煙を上げながらホームで出発を待っている。この瞬間に一気に上がったテンション。映像でしか見たことが無かったSLが目の前で生き返った感覚になる。蒸気のシュッシュッという音、石炭が燃えている匂い……黒く光る立派な車両は鉄道好きでなくても思わず「かっこいい!」と思ってしまうのも仕方がない。大井川鐵道ではいくつかSLを所有しているので、どの蒸気機関車に会えるかは当日の運。動輪軸(単純に車輪が付いている車軸とお考えください)が三つのものを示す「C●●」という車両の中で、私が乗ったのはいちばん古い「C 10 8」という車両だった。

このSLが引く客車は「川根路号」という車両。旧国鉄時代の車両をそのまま使っていて内装もそのまま。天井には扇風機と裸の蛍光灯、昔懐かしい網棚らしい網棚。昭和の雰囲気をそのまま残すボックスシートには今は見ることがなくなった、灰皿(現在は全席禁煙)や瓶の栓抜きも設置されている。そして、指定席にたどり着くと予約しておいた鉄道弁当が席で待っている。この弁当がさらにSLの旅のムードを上げてくれるのだ。弁当に付いてくる缶のお茶はこの沿線で栽培されている川根のお茶、これがまたすごく美味い。

20140331_c.jpg
なるほど、灰皿が懐かしい
弁当を食べながら約1時間のSLの旅。せっかくなので窓を開けてちょっとだけ顔を出してSLの風を感じてみると、迫ってくる柱やトンネルの入り口がちょっとしたスリルでこれもまた楽しい。

もうひとつの楽しみといえば「SLおじさん・SLおばさん」。本当はSL専務車掌という名前なのだが堅苦しいからこの呼び名になっている。車内放送での車窓からの景色の説明はもちろんだが、実際に客車内を歩いてハーモニカの演奏やおしゃべりでSLの旅をさらに楽しませてくれる。これも大井川鐵道の名物なのだ。

金谷駅で外から見た時は列車が生き返った感覚だったが、乗車するとタイムスリップした気分になるのが不思議な感覚。私的にはトンネルに入っている間は完全にタイムスリップだった。

こんな約1時間20分の大井川鐵道蒸気機関車の旅は乗ってしまうとあっという間。終点駅ではタイミングが良ければ運転席に乗せてくれることもあり、目の前で石炭が赤く燃えている熱を感じることができる。せっかくなので降りるときには運転席をのぞいてみよう。

20140331_a.jpg
憧れの運転席にも座れるかも?
SL終点の「千頭駅」からはさらに山を登る井川線(南アルプスあぷとライン)という列車に乗車することもできる。こちらは日本で唯一のアプト式ライン。アプト式機関車を列車最後尾に連結して、"ラックレール"という歯形のレールと"ラックホイールピニオン"という坂道専用の歯車を噛み合わせて急勾配を走る珍しい森林鉄道だ。どの駅で途中下車しても本当に森の中で、山頂近くなると熊出没注意で冬期は下車できない駅があるくらい。これもまた現実離れした感覚になってとても好きなのだが、こちらはまた機会があれば……。

20140331_d.jpg
この先に行くには井川線を。
日本で唯一の、レールにまたレールがあるアプト式です