去る1月11日午前、広島県の広島刑務所に服役中だった中国籍の男が脱獄(脱走)した。
刑務所の塀の改修工事のため、塀の内側、外側のそれぞれ一部に工事用の足場が組まれており、それを伝って逃走を果たすという……刑務所としての危機管理の面からすれば首を傾げたくなる状況だったようだが、こうなった以上は警察と協力して速やかに脱獄犯の身柄確保をお願いしたい。
とはいえ……第二次世界大戦中の捕虜収容所からの脱走劇を描いた63年公開の大作『大脱走 』や、米国で放送された連続ドラマ『プリズン・ブレイク 』など、“脱獄モノ”に根強い人気があるように、一報があったときは不謹慎ながらロマンを感じてしまったのもまた事実。それだけに組んであった足場などという手段ではなく、『大脱走』よろしくトンネルを掘っていたりしてもらいたかったのだが。「のだが」ってこともないが(笑)。
こちらおなじみ(?)網走刑務所。
かつては「日本一脱獄が難しい」などともさて、裁判による判決など公権力の判断で身柄を拘束されている者(拘禁者)が、このように脱獄や逃走をした場合、法治国家としての存在意義などということを持ち出すまでもなく、新たな刑罰の対象となる。日本では「逃走の罪」として刑法97条から同102条までで規定されており、今回報道されている広島のケース(単独犯として単純に逃走)の場合は「逃走罪(97条)」として1年以下の懲役が残りの刑期に加えられる。
これが、収監されている監獄の鉄格子や手錠を切断しての脱走、刑務所の職員などを暴行、脅迫してのもの、二人以上の仲間との共謀で逃走などした場合は、「加重逃走罪(98条)」として罪が重くなる。加えられる刑期は3カ月以上5年以下の懲役である。
また、「逃走の罪」では逃走者だけでなく、逃走の支援者への刑罰も規定されている。
拘禁者を奪い返す行為をした場合は「被拘禁者奪取罪(99条)」として3カ月以上5年以下の懲役が課せられる。また、「逃走援助罪(100条)」として、拘禁者を逃走させるべくヤスリを渡すなど手段を提供した場合は懲役3年以下、職員の暴行、脅迫などをした場合は懲役3カ月以上5年以下。さらに刑務所の職員など監視する側が逃走を援助した場合は、より重罪となり懲役1年以上10年以下とされている(「逃走援助罪」101条)。
また、これら4条は未遂でも適用される(102条)。以前、内側から塀の上まで達したものの、外側への足場がなかったために降りることができず、塀の上で御用になった受刑者がいたそうだが、その場合も逃走罪または加重逃走罪が適用となるわけだ。
最後に、この「逃走の罪」に類する法律はほとんどの法治国家に存在すると言って間違いないが、ベルギーなど逃走自体には刑罰を設けていない国もある(もちろん拘束後に残りの刑期を満了する必要はある)。それは「人類の自由への渇望を縛るべきではない」という理念から、だとか。