三ッ峠・やっぱり岩が好き!-1

5月21日:マルチピッチ・三ッ峠
いっそさっぱりした気分でいられるのは「ヘタクソだけど岩は好き」だからということでは全くなかった。数日前、意気消沈、落胆、自信喪失、失望、絶望でパンパンに腫れ上がった胸がついにパンクしたのだ。

「もう山、止めます」
本郷さんにメールした。
もう、何が何だかわからなくなっていた。何のために何をしようとあがいているのか。ただただ辛くて哀しくて苦しかった。人としてさえ成立し得ていないようで惨めだった。
「山なんて大嫌い!」「モンブランもマッターホルンも、もう、いい。たくさん」「もーッやめたッ!!!」

そう決意したら、胸に溜まったヘドロが全部、抜けて出た。
「止めるのは何時でもできる。ともかくもメールで最後は虚しすぎるでしょう」

汚物をきれいに吐き出して、すっかり心が軽くなった。そしたら「最後だから、ガンバロ!」な気分にも少しなれた。登山口から山荘・四季楽園まで懸命に歩いた。暑い日だった。汗だくになった。少し水分補給しただけで支度をして岩場に降りた。

数ピッチ登って小さなテラスに着いたら、クラリと目まいがした。次のホールドをとってスタンスを置いたら目の前が光った。かじりついている面前の岩肌が蛍光ピンクの閃光を放っていて、まぶしくて目が開けられない。目を閉じたまま必死で岩にかじりつくので精一杯で、遠くで呼ぶ声がする気がするのだが、反応ができない。

「イテッ!!!」
ふと我に返ったら、ほっぺたをしこたま岩になすりつけていた。その前後がほとんど記憶がない。後から聞いた話しだと、どうやらラストから2ピッチ目の途中で瞬間、気絶していたらしい。目をつむったまま必死で岩にかじりついて「落ちる、落ちる」とつぶやていたんだとか。
「一般ルートから十字クラック、天狗の踊り場まで抜けた」
ラストワンピッチのテラスで横になって、本郷さんから水をもらい、どのくらい休んだかわからないが、しばらくしてヨレヨレながらも終了点まで登り、懸垂して降りてきた。

トップロープ練習はさすがに参加できなかった。どうかするとフワッと後ろにひっくり返りそうになるので、地べたに腰掛けて眺めていた。少し頭痛がした。

四季楽園に戻ったときには、幾分の頭痛はあるものの、ずいぶんふらつきは治まっていた。
「こっち、こっち」
本郷さんが手招きする。四季楽園の玄関先へ出たら「どうする?」
「はい、山、止めます。モンブランもマッターホルンも全部止めます」
ときっぱり言うと決めてきたはずだったが…

「ワタシ、頑張れるでしょうか?頑張ってもいいんでしょうか?」
など、自分の口がそんなことを言うなんて自分で自分が信じられないことを応えていた。
なぜ?

やっぱり岩が好き!
そういうこと?
いやー、今でも謎だわッ!!!

*なにせ目を回したので画像はありません。

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