3月19日
「美しの森」駐車場でパッキングしたザックは、時間経過で感じる重さが増すようだった。
牛首山への分岐を過ぎ、だんだんに雪が深くなり、傾斜も強くなるにつれザックのしょいベルトが肩にくいこむ。
ワカンをつけて半ラッセル状態の歩きになるころには、もう反吐が出そう。数分も逆立ちしたかのように首から上に血がちゃんと巡らない。そんな感じ。
段差の大きい雪斜面の乗り越しが上手くできない。右足で踏み越すのに身体を斜め右前へ前傾しようとするとザックの重みに振られて、右肩から雪に埋もれる。態勢を立て直そうとして左手で雪面を押そうとすると、今度は体が左に傾いて左半身雪に埋もれる。
自分で自分のワカンを踏んづけて肩膝ついたりしようものなら、ちょっとやそっとじゃ起き上がれない。
休憩でザックをおろしたりすると、再び背負うのに泣きの涙。なかなかザックを膝の上に持ち上げられない。ようやく持ち上げても右肩をベルトに通し、次に左を通そうとする段で持ち堪えられず、ザックと一緒にその辺に転がってしまう。
足場の雪を少し掘って、やや高めの位置にザックを押し上げ、後ろでに背負おうとしたが、すんなり持ち上がらない。思い切り身体を前傾しなければ、荷が背中に乗ってこない。ようやく乗ったと思ったら、今度は重さに負けて前へつんのめる。もとの木阿弥。
ただでさえ歩きは遅いわけで、本郷さんも今回一緒のTさんも、はるか前を行っているから助けを呼んでも届かない。
人が見たらまるでひっくり返されたカメさんのようで、なんとも滑稽なんだろとは思うが、にっちもさっちもいかない。といったって、なんとかするっきゃないんだから、踏みとどまって態勢を整えようとアゲン&アゲンで頑張るしかない。もう、半泣き!
何度か試行錯誤すると、どこでもなく「ここ」で踏ん張る、踏ん張りどころがつかめてくる。
「んがぉーッ!!!」
もうどのくらい時間が経ったかも解らず、何度「んがぉーッ!!!」の雄たけびを上げたかも知らず、ひたすら耐えて歩く。この体たらくを情けないと思うゆとりももはやなく、辛いもなく、いわば悪酔いしたような妙なテンションに突入したかと思いきや、意識の外で足が止まった。両肩にも心臓が乗り移ったようにドクドクする。気持ちは足を進めようとするんだが、地に根が生えたように足が前に出ない。
そしたら、目の前に本郷さんの顔が。
「ザック、降ろして!」
「え?降ろすと2度と背負えないけど…」
「いいから降ろして!!」
「こりゃ、重いわ。よく頑張った」
中身を2分して本郷さんとTさんが背負ってくれた。そこからヨレヨレと5分もせずに「出合い小屋」に着いた。
「明日のためにトレースつけに行ってくるから」
本郷さんとTさんが出かけた後、レジ袋に雪を集めたり、小屋の中にあった小さな薪ストーブに火を起こしたりした。
小屋の周りには世間の喧騒も届かず、白雪の神の腕に抱かれてことさらに静寂だ。
晩ご飯&酒盛りの時の話し。
「30kgはいかないかもしれないけど、25kgはあったね」
というあたりで本郷さんとTさんの意見が一致した。メチャメチャビックリした。確かに死ぬほど重かったけど、そこまでとは思わなかった。
それって、どーゆーこと?!
たとえ25kgが20kgだったとして、その重さをしょって山を行った試しはなく、アタシ的未踏、新記録だ。
「そこそこ強くなってきた、ってこと?!」
心密かに嬉しくなった。
天災に見舞われ、続いて原発事故勃発で世間は騒然。交通機関機能の回復も危ぶまれる中、はらはらするのも面倒で、むしろ「計画通り実行」の本郷さんの連絡が半ば恨めしくもあり、「まさか」を思うと不安もあった。
無念無想で歩くうちに様々な障りも不安もどこかへ霧消した。
「来てよかった」
心底、そう思った。
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