長年慣れ親しんだ街というのは、やはり離れがたく、そして仮に離れてしまったとしても、いつかは戻って来たくあるもの。そして、その郷愁は大都会よりもやはり地方や下町に強いかもしれない。
桜丘もそういった街であろう。これまで登場いただいた方には大昔から住んでいて商売を始めた方もいれば、縁あって桜丘に辿り着き「いい街だ」と末永い活動の拠点にされた方も多い。「出ていった方も、やっぱり帰ってきたいとみんな言っていますよ」と教えてくれた老舗の店主の方もいた。取材時に多くの方が声を揃える「落ち着く街」というのが、なによりの証左なのかもしれない。
「そうですよね。私もずっとこの辺で実家が商売をしており、やはり桜丘など近所で仕事をしたいと思いました」
今回ご登場いただく『jewelry&watch Caera(カエラ)』のご主人、野口伸一さんもそう言って笑う。貴金属のリフォームや時計の電池交換、それらの買い取りなどを行なっているお店だが、野口さんはもともとは桜丘の隣町、鶯谷町からやってきた。
「もうすぐ5年になります。もともとは鶯谷町で父親が時計の修理の職人をやっていたのですね。街場の時計店というのは『時計、メガネ、宝飾品』が三点セットで扱われているイメージがありますが、私の家がまさにそれ。で、その家で育って、最初はジュエリーに興味を持ち、デザインなどができたらと思いまして、父は時計専門でしたから父親の店に間借りのような形で店を出しましてね。そしてそのうちに時計にも興味を持ち始めた……というところです。それで別に店舗を構えようとなったときに、鶯谷に近い桜丘も慣れ親しんだところですし、これまでのお客さんにも近い。『郵便局の上ですよ』と言ったらすぐわかるわけですからね(笑)」
ワンルームの店舗に思い思いの物を持ってやって来るお客さん。金相場の高騰や不況の折りなどから買い取り希望の人も多いのかと思いきや、「多くはジュエリーのサイズ直しや、婚約指輪などを作り替えて今使いのものにするリフォームや、時計の電池交換などですね。外国産の高級時計などのオーバーホールも承っておりますので」と野口さん。しかし、以前にはこんな経験もあったとか。
「買い取ることはできなかったのですが……3000万円の時計の買い取りの相談を受けたことがありました(笑)。たしか“ピアジェ”の時計だったと記憶していますが、全面にダイヤモンドがちりばめられている物でしたね」
実物を持ち込まれたらおおよその価値は判別がつくという野口さん、外国産の時計など精巧すぎる偽物も出回っている昨今、さすがに“持ち込むつもり”で偽物を持ってこられたことはないそうだが、「あ、これは……と思う、お客さんの側が気が付いていない、というケース」はあったとか。「それはお伝えするのが気の毒ですよね……。(ショップならともかく)外国で何気なく買った物の中には、ちょっと怪しいのもあったりするかもしれません」
店内では買い取り品となったジュエリー類や時計の販売も行なっている。取材当時は以下の写真のような“オメガ”の時計や“ブルガリ”の指輪などが並んでいた。
「時計の電池などはお待ちいただく間に交換いたします。その際にはそれらの商品もご覧になってみてください。お待ちしております」
最近では街の商店街でも「時計、メガネ、宝飾品」の時計屋さんはあまり見なくなった。そんな商品展示こそないけれども、誰もが落ち着く桜丘にピッタリマッチした“商店街の時計屋さん”、それがきっと『Caera』なのだ。
どうもお邪魔いたしました。
Q・あなたにとって桜丘とは?
「うーん、なんでしょう。これまでも生活の一部の街ですし……と考えてしまうのが、それこそここで生活してきた者という気がしますね(笑)」
時計の電池交換中の野口さん。国産の時計だと840円からです。
「電池交換はお待ちいただいてすぐお渡しできますよ。オーバーホールなども承ります」
電池交換などの小道具たち。右の計量器はコンマ三桁まで重さが量れます。
「貴金属類は重さが値段に直結しますから、精密なはかりが必要なんですね」
取材時に見つけた掘り出し物の商品から、こちらスイスが誇る高級時計・オメガの「Speedmaster Professional」。月面でも活躍したムーブメントなんですよ。こちら18万8000円です
当コーナー初のダイヤモンド登場ですね。イタリアが生んだラグジュアリーブランド、BVLGARIのダイヤモンドリング。早い者勝ちの5万4800円で
【今回の桜な人々】
jewelry&watch Caera
野口 伸一さん
〒150-0031
東京都渋谷区桜丘町12-6 ビラ桜丘203
(マップ)