ここ数回、買い物やランチも楽しめる桜丘を見てきたが、今宵は夜の桜丘に繰り出そう。
桜通りの麓の位置、すっかりおなじみ『hair C2桜丘店』で髪を切り、『Studio酒場 美華』に「後で寄りますよ」と声を掛けてから横の階段をトントンと2階へ。
そこに今回の目的地がある。
『Bar Barista.(バー バリスタ)』
バリスタ? バリスタというと“コーヒー職人”だと思いきや、扉の向こうに広がるバースペースには、シングルモルトウイスキーを始めとする目を奪われそうな洋酒の数々。そしてその前で微笑んでいるのがオーナー・バーテンダーの高瀬健一さんだ。
「いらっしゃいませ。バリスタと言いますと、たしかに最近はコーヒーを煎れる職人さんというのが一般的ですが、このバリスタという言葉は“bar(バール)の中でrista(サービスする人“というのが語源のイタリア語で、英語ではそのままバーテンダーなんですよ。もちろん私はその意味で店名にしたわけです」
丁寧にこう教えてくれた高瀬さん。居並ぶ洋酒類、そしてこのバーテンダーさん。この店を包む空気はとても“正統派”、そしてとても“実直”。
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裏話を。
実はこの取材にはアンケートが存在しており、記述いただいた内容や取材時の会話を元に原稿ができあがる。「記述は時間があったらでかまいません」と伝えつつ、?瀬さんにもお渡ししたところ、取材当日「すみません、いま清書しています」と話すその手元には、アンケート用紙とは別のA4用紙2枚にビッシリと書き込まれた回答が! 高瀬さん、こちらを元にして原稿を作らせてもらいますから(使用しない箇所もあるわけです)どうか簡単に……という筆者の言葉に、「いやいや、もちろん使えるところだけ使ってください」と返しつつ、「すみません、やっぱり書き忘れた部分があるのでもう一度……」と回答を書き加える高瀬さん。
今回はその回答、すべて掲載しよう。それがきっと、お店の“顔”の人物像をいちばん伝えるはずだから。
Q・桜丘にこのお店を開いて何年? またお仕事としてのキャリアは?
A・以前は渋谷の『松木家』で6年9カ月。ここ『Bar Barista.』は昨年の8月8日にオープンいたしました(末広がりの“八”を重ねました)。
Q・桜丘を選んだ理由は?
A・このビルのオーナーは社団法人日本バーテンダー協会の渋谷支部長でして、10年以上前からお世話になっております。その小林支部長からご紹介をいただきました。私が通っていたバーテンダースクール、『Studio酒場 美華』、『レストランバー・アミューズメント』(後日登場予定)、『Jazz With KAZZ』、そしてその他にもお世話になっている方々がたくさんいる桜丘で、自分も開業したいと思いました。
Q・桜丘とはどんな街?
A・渋谷の喧騒から離れていて落ち着いた感じであり、そしてこの街の人たちはみなさん明るい。特に桜の季節は最高ですね。ここで咲いているソメイヨシノは下に向いて咲くんですね。「私を見て」って言っているみたいに……桜がこれほどまでに人々に愛されているのは、単に綺麗なだけではないのかもしれない、と思わされます。
Q・桜丘でよく行く場所は?
A・桜丘でいちばん通うお店は『TORO’S』ですね。看板メニューの「ハンバーグ」と「アンチョビポテト」がいちばんのお気に入りです。ハンバーグはとろっとろでふわっふわ、そして肉汁がジュワー……っと。アンチョビポテトは必ずおかわりしますよ。
Q・桜丘も変わり行くわけですが、残したいものは?
A・それは「先人たちの礎」ですね。これは当店の話になりますが、以前ここは何十年も続いた『バリハイ』というバーでした。長く続いていた店、それは『バリハイ』だけでなくどんなお店でも、たくさんの歴史が詰まっています。当店でもカウンターの足場に敷いてある黒石、昔ながらのブラケット、ハンガー掛けのフック、そして壁の絵……残せるものは残して営業をしています。残していると言えば、先代のマスターが好きだった「いいちこの牛乳割り」もご用意していますよ。
Q・現在の仕事や桜丘での生活で、これだけは忘れられないできごとは?
A・始めて桜丘に来たのは16年前、バーテンダースクールの門を叩いたときです。初日に先生とお話しさせていただいたとき、なにも知らなかった私は、バーテンダーのことを“バーテン”と言ってしまい、先生にこっぴどく怒られました。バーテンダーとは“Barの中のtender(優しい人)”なんです。初日にいちばん大切なことを教えていただきました。
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昨年、実直なバーテンダーとともに桜丘にやってきた正統派のショットバー『Bar Barista.』。とはいえ下の写真にあるような大胆なカクテルメニューの存在が、このお店がまったく肩肘張らない店だと証明している。
実直に、正統派に。そしてときどき大胆に。
桜丘に『Bar Barista.』があることに感謝して、グラスを上げよう。
乾杯――
Q・あなたにとって、桜丘とは?
「ひとことで言えば『縁』です。この街には自分にとって大切な縁が詰まっています。同じ桜丘にいる同年代のシェフとも交流が始まり、いまではかけがいのない戦友です。
仕事と思わず人生と思える職業、それが『バーテンダー』――そのことを桜丘にオープンしてから、より強く感じるようになりました」
カウンターに、バースペースに所狭しと並ぶ和洋の銘酒たち。ちなみにチャージが525円、各種カードもOKです
写真右がかつてあった「バリハイ」の絵。こちらを眺めつつ、8席のカウンターでウィスキーボトルとともに優雅に、また友達連れなら8席ありますテーブル席へどうぞ。「お友達のお誕生日には容量が1リットルもあるカクテルグラスで作るハッピーバースディカクテル(要予約)も。もちろんローソクも灯ってます」(高瀬さん)
シングルモルトなども気になりますが、今日は高瀬さんオススメのカクテルで。見せ場ですよ、シェーカーを振る様は
「バリスタ」(1260円)。
エスプレッソの苦みを利かせた味わいのこのカクテルは……「07年に参加した全国バーテンダー技能競技関東地区本部大会のアフターディナーカクテルの部門で、参加40人中39人が甘口のカクテルを出した中、苦味を出したのは私だけでした。甘いものが苦手な方も楽しめるようにと考えまして……すべてのお客さまの要望に応えたい、その気持ちをカクテルにも、そして店名にも込めています」(高瀬さん)
「谷中生姜のモスコミュール」(1365円)。
「谷中生姜を浸けて一年寝かせた自家製ジンジャーウォッカに、生姜入りプレミアムジンジャーエール。さらに生姜のすりおろしと谷中生姜を丸ごと一本。その谷中生姜は私が高校2年生の時から作っている生姜を効かせた自家製味噌でお召し上がりください。そんな生姜尽くしモスコミュール、世界一背の高いカクテルとしてギネス申請中……というのはウソです(笑)」(高瀬さん)
「バリスタオリジナルジントニック」(1155円)。
一本の長い氷とフレッシュライムのつぶつぶがアクセント。
今日のおつまみは
「回鍋肉(ホイコーロー)」
(1050円)
「20年間作り続けた自慢のレシピは誰にも負けない」
「バリスタにお出での際はとりあえずジントニックと回鍋肉をどうぞ(笑)。お通しなども、ちび太のおでん・コンソメ・年越しそば・七草粥(秋・冬)・お花見団子・若竹煮(春)・オリジナル冷や奴・焼きトウモロコシ(夏)……カクテルも四季折々のフルーツ、野菜、ハーブなど合わせて20種類前後用意しております。
バリスタに遊びに来ていただければ感じていただけるはずです。
『日本に生まれて良かった』と」(高瀬さん)
【今回の桜な人々】
Bar Barista.
高瀬 健一さん
〒150-0031
東京都渋谷区桜丘町2-8
小林ビル2F(マップ)