竹内英介写真展 『北国(きた)に向かう』瞬く間に現れ、消える車窓の風景。写真家・竹内英介インタビュー


takeuti01.jpg

行く前はいまさら北海道まで夜行列車とは、と思ったものの、女房のたっての希望ならば「致し方なし」ぐらいの感じで乗った上野駅発のカシオペアが思いもよらず私にとって新鮮な旅となった。次第に夜がふけ、闇から現れ闇に消えて行く車窓風景は驚きと興奮さえ感じさせてくれた――そう語る、写真家・竹内英介氏に、旅と愛機のライカM4について話を聞いた。


takeuti02.jpg

★快適な寝台特急カシオペアの旅

昔の寝台列車は3段ベッドだったり、夜行列車では直立した椅子で、いかにうまく寝るかを考えなくてはいけなかった。それが寝台特急カシオペアといえば、個室でビジネスホテルのようなイメージでくつろげ、窓もとても大きくガラスも綺麗なんですよ。普段は車移動が多く、ほとんど列車には乗らないので、東京に住んでいても地下鉄の乗り方もわからず、よく自動改札で出られなくなることもありますよ。違う路線の切符を買ってしまっているみたいですね(笑)。今回の旅は女房がすべて手配してくれたので、私はライカM4を持って写真を撮ることに専念できましたね。

 

★ライカM4というカメラの特性

ライカM4の特長は「壊れない!」。
第二次世界大戦のころから報道カメラマンといえばライカだったそうですよ。私の使用レンズは標準の50mmと35mmですが、35mmはレンズが2種類あってF2のズミクロンとF1.4のズミックス。私の場合はズミクロンを使っています。それと28mmのエルマリート、こちらはF2.8ですね。


takeuti03.jpg

そしてライカのもうひとつの特長はフォーカスリングにレバーが付いていることですね。距離を黙視してレバーにおいた指の感覚で無限大、3m、2mと調整できるんです。どのレンズを使ってもこの感覚が同じなんです。ですから速写性が高いんです。のんびりとした夜行列車の旅の写真ですが、実は被写体が速く過ぎて行きますので、ピントを合わせるタイミングが難しいのですが、これならピントを合わせなくとも手の感覚で撮影できるんですよ。また、暗闇でも肉眼で距離感がわかればピントが感覚で合わせられるんです。条件が悪ければ悪いほど威力を発揮しますよ。
ニューヨークでジャズのライブ撮影をしたときなどは暗い場所でも、私の感じでは一眼レフよりもピントがきていたと思いますよ。


takeuti04.jpg

 

★カメラとは性能ではなく相性なんです

ニコンFが流行っていた時期がありまして、コダクロームとの相性がとてもよく、ファッションの世界ではよく使われていました。また、アサヒペンタックスの一眼レフカメラはシャープな写真が撮れましたね。でも、何がいいかっていうのは難しくて、カメラって万能なものはなく、自分が何を写したいかでチョイスするものだと思いますね。だから私にはライカM4が相性がいいんです。


takeuti05.jpg

 

★私の好きな夜の写真の撮り方

私は夜の写真を好んで撮るんですけど、やっぱりF値は明るいほうがいいですね。フィルムは、KODAK TRI-X Film(トライエックスフィルム)しかほとんど使いませんが、その中でもISO800のフィルムでよく撮影をします。今回もそうでしたね。
その作品の中で光の軌跡を追いかけた写真がありますけど、そういった撮影の場合はバルブでシャッターを開けたままで撮影します。ライカのカメラは一眼レフではないので、シャッターを切った時にファインダーから映像が見えるわけです。ですから、光が通り過ぎて行く状態を頭の中で想像できるんです。どこまで行ったかとか、もう少しで画面からはみ出してしまうとか……。
今回、展示しているバルブで撮影している作品は想像どおりに撮れていますね。夜の撮影で面白いのが、空って結構明るいんです。晴天の月明かりだと自分の影が太陽光の影のように見えるんですよ。
少し明るくなって来たころの弱い光の中での写真、そういった作品も撮りたいんです。列車の写っている作品がそうですね。ライカだと肉眼と同じ感じで撮れますよ。今のデジカメは感度がいいので、暗くても昼間の写真のように綺麗に撮れてしまうけど、でもそういった感じにはしたくなかった。自分の目で見た感覚で撮影をしたい。夜のうすぼんやり見えている感じや列車の振動でブレている感じを自然に出したい。その空気感といったものを撮りたいですね。これからも、撮る理由と撮った時の感覚を大切に作品にしたいですね。


takeuti06.jpg

(撮影/中村うらら)


takeuti07.jpg

プロフィール
竹内英介(Takeuchi Ei suke)
1949年生まれ 東京都立川市出身
1963年・家にあったオリンパスペンでスナップ写真を撮り始める
1965年・日大二高 写真部に入部
1968年・日本大学藝術学部写真学科入学。広告制作会社「アドス」に撮影アシスタントとして、広告の世界を知る
1972年・広告代理店「キタ・パブリシティ」入社
1980年・フリーカメラマンとなり、タケウチスタジオ設立
2005年・「ギャラリーE&M」を西麻布に設立

皆様に、お会いできた事をうれしく思います。
ありがとうございます!


takeuti08.jpg

『北国(きた)に向かう』
主催:Gallery EM nishiazabu
期間:2012年3月6日(火)〜3月17日(土)(日・月曜日休館)
時間:12:00〜18:00(入場無料)
住所:東京都港区西麻布4-17-10
電話:03-3407-5075

【関連記事】
写真家・永嶋勝美インタビュー
http://asobist.samplej.net/entame/interview/20120217.php