映画『家族X』トークショーに吉田光希監督と鈴木杏が登場鈴木「役者を辛い思いにさせる監督ですね……」

kazoku201.jpg 渋谷ユーロスペースで9月24日(土)より公開された、第20回PFFスカラシップ作品『家族X』(吉田光希監督)。9月28日(水)には同劇場にてトークショーが行なわれ、女優の鈴木杏が登場。季刊誌『真夜中』(リトルモア)に、吉田光希監督の本作『家族X』と前作『症例X』の鈴木によるレビューが掲載されたことから、今回の対談が実現した。

kazoku202.jpg ●お二人は今日、初対面とお聞きしましたが……。

鈴木:20分くらい前にお会いしたばかりです(笑)。
私自身が出演していない作品でのトークショーというものは今回初めてかと思います。どこまでお話しさせていただいていいのか……。

吉田監督:ネタバレ重要な作品ではないので……(笑)。凄く疲労する映画と言われますけど……。

鈴木:疲労しますね〜。

吉田監督:観終わって疲れましたか?

鈴木:疲れましたね。何か砂を噛まされるような気持ちになりました。私は陶器が擦れる音が大嫌いなんですが、そんな、なにかザラッとしたものがどんどん胃に溜まっていく映画だなって。

吉田監督:手持ちカメラで撮影している部分が多いということもありますね。観ていると路子と同じ時間を共有していく、エピソードで繋がっていくわけではないので、それが疲労度の高い作品になっている。

鈴木:最初はちょっと覗き見をしている感覚という距離感をもって観ていたはずが、気がつくとすぐそばにいるような……そんな感じがする作品です。

吉田監督:家庭にビデオカメラが入ったくらいの感じで作りたいなって。映画としての編集を気にしないで撮りました。たとえるなら運動会のビデオを撮るお父さん。家族を見つめるということを大切にしたかった。

鈴木:ずいぶん前になりますけど『空中庭園 』(05年)という家族をテーマにした作品に出演させていただいて、一見うまくいってるようにみえる家族も個々の集まりで、孤独だから支えあうことができる、家族ってなにか不思議なコミュニティーなんだって感じました。『家族X』を観て『空中庭園』のことを思い出したり、自分の家族について考えたりしました。

kazoku203.jpg 吉田監督:俳優も自分の中のリアリティをよりどころにして演技をするから、結局は俳優のドキュメンタリーじゃないのか?っていう話しを俳優の村上淳さんがされていて、そのリアリティに踏み込みたかった。

鈴木:すべてをオープンにする俳優は多くはないと思いますけど、どうやってアプローチされたのですか?

吉田監督:言葉では出さないですけど、俳優の中にあるものと僕の中にあるものが合致する瞬間があって、そうするとその後の撮影はスムーズにいきます。そこまでが難しい……。
家族という感触を確かめたくてシナリオを書き始めました。必ずしも家族が同居していなくても、正月くらいは帰ろうかというような思いは、家族に目線が向いているんです。眼差しを失って同居をしているこの作品の状況は、もの凄く辛いこと。どうすれば関係をとりもどしていけるのだろうか……本来、家族は眼差しが向き合っているものですから。

鈴木:生まれた時からずっと一緒にいて、そんなにいつも見ていなくても大丈夫って思ったら終わりなんだなって、ちゃんと眼差しを向き合わせないといけない。この作品で会話が少ないということがこんなにも怖いことにビックリしました。

吉田監督:悲しいとか辛いとかという思い悩む瞬間を捉えたかった。たとえば、作った食事を食べてもらえなかった瞬間ではなく、その後ひとりになって台所に立っているとき……。その瞬間がいちばん思い悩んでいる時間。シナリオの行間になにがあるのか?ということを撮影中考えていました。

kazoku204.jpg 鈴木:役者もどんどん追い込まれていく、その世界に入り込まないといけない現場だったんだなって感じますね。

吉田監督:南さんからは、この撮影中の私生活を思い出せないって言われています。

鈴木:凄い! どんどん役者を辛い思いにさせる監督ですね……。

●最後にひとことお願いします。

鈴木:この作品のラストのシーンに「やられたな!」って思いました。これが希望なのかな?っていうラストに、コミュニケーションがうまくとれなくても同じ方向を見始めた家族に、凄く暖かく、心強いものを感じました。監督と出演者と観客が同じ目線で共有できる作品です。『症例X』もおすすめです。

吉田監督:海外映画祭の中では意見が分かれ、別の見方もできることに面白さを感じました。みなさん今日はありがとうございました。

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■家族X(第
20回PFFスカラシップ作品)
 

kazoku09.jpgPFFスカラシップ
1984年から始まった、世界でも類のない“映画祭がトータルプロデュースする映画製作奨励制度”。映画祭のコンペティション部門「PFFアワード」の入賞者に挑戦権が与えられ、次回作の企画を提出、その中から毎年ひとりのオリジナル作品をPFFが企画、脚本、撮影、公開、そしてDVD発売などトータルプロデュースすることで、自主映画監督のデビューを支援している。荻上直子(『トイレット』)や李相日(『悪人』)など、日本映画を牽引する監督を輩出している。『あそびすと』サイトでピックアップしている園子温監督もそのひとりである。

 

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吉田光希(よしだこうき)
1980年、東京都出身。東京造形大学在学中より、塚本晋也監督作品を中心に映画製作現場に参加。美術助手、照明助手、助監督などを体験する。現在同大学の学長を務めている諏訪敦彦監督には、もっとも才能ある若者と評され、今後の作品にも期待が寄せられている。
●フィルモグラフィー●
(自主制作作品)『螺旋的常勝的』(04年)10分/『エチカ』(06年)50分/『サイレンス』(06年)30分/『症例X』(07年)67分=★ユーロスペースにて10月8日(土)より2週間限定公開!
(劇場公開作品)『家族X』(10年)90分
失われた家族を人はどう回復していくのか? 3.11以降の日本の家族の姿を予知させる、“家庭内行方不明者”を取り戻す旅が、いま始まる――。
主婦・路子(南果歩)が日々寸分の狂いもなく配膳する食卓は、寸分の狂いもないがゆえに家族の息吹がふきこまれることはない。夫・健一(田口トモロヲ)にとっての家は、帰る場所ではなく、終わりのない回廊が張り巡らされた辿り着けない場所だ。息子・宏明(郭智博)は自分がどこにもいないことを知っている。東京郊外の新興住宅地。橋本家もほかと同様、砂上の楼閣のように揺らめき、足場を失っている。姿はあるのに誰もいない椅子、いない部屋、いない家は、最初に路子がバランスを失ったことで傾き、大きな渦に呑み込まれていく……。


監督・脚本:吉田光希
出演:南果歩/田口トモロヲ/郭智博/筒井真理子/村上淳/森下能幸
配給:ユーロスペース+ぴあ
公開:9月24日(土)、ユーロスペース他にて全国順次ロードショー!
公式HP:www.kazoku-x.com
あそびすと記者会見:吉田監督、南果歩、田口トモロヲ、郭智博が登場
 

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