まだまだ暑い日が続く昨今、皆様いかがお過ごしのことと存じます。夏と秋との端境、こういう折りには時に不安定な天候が続く地域もあって、そのせいか風邪をひいてる人も多いようで、こちらの読者諸兄にはご自愛を願っておきますが。
さて、こういう季節の変わり目、春先や夏の終わりのバーゲンにはまれに眼を瞠るような破格のものに出会うことがあって、先日そんな風にして見つけたのが今年3月、といえば半年前に出たばかりのBruce Springsteennの“The Wrecking Ball”というアルバムのCD。なんと、416円(税込み437円)ですよ。さすがBOSSと異名を取るブルースさん、太っ腹! と言っても自分のアルバムがこの極東の地でいくらで売られているかなぞ、ご存じないでしょうけども。ともかく安かった。
ところでこの特価販売を見つけたのは他でもないDM。かの有名通販サイト、ア●ゾンからのメールで知ったわけですが、そこで誘導されていった本家サイトがまずかった。「期末大廉売特別価格オン・パレード」。後ろには紅白の幕、サイトの入り口にはハッピ姿でメガホン片手の店員がいて、まるでどこかの電気屋店頭のような有様……にはなってませんが、まぁそういう雰囲気であります。
で、その手にまんまとはまってアナログ盤2枚。けっきょく合計3010円の買い物になってしまった、という話は妻には秘密であります。
だってさ、Norah Jonesの新譜“Little Broken Heart”が180gアナログ盤2枚組で1319円、Paul McCartneyのこちらも新譜、スタンダード・ジャズばかりを集めた“Kisses on The Bottom”に至ってはやはり2枚組で1131円(税込1138円)ですよ。2枚組アナログ盤といえば昔なら3000円超の代物。いやーお買い得。しかも両方とも180g重量盤でハイレゾ音源のDLコード付き! 安いっ! はははは! どうすんだ今月の小遣い! お金ないのに……(泣)。
まぁそんなこんなで届いたレコードとCD。この後はCDやダウンロードしたハイレゾ音源は聴けるものの、仕事場にあるアナログ盤の再生環境がちょっと不具合なのでこっそり家に持ち帰ってターンテーブルに乗せました……という話になるわけですが、今回の話題はコレでない。仕事場で聴いたダウンロードMP3音源のことであります。
件のNorah Jonesさんの新譜。ジャケットからして今までとまったく違う。調べてみるとなんでも米国ではその名を知られるカルトなポルノ映画監督ラス・マイヤー製作の「Mud Honey」という作品のポスターのデザインをそのまま採用したらしい(※注1)。
どうやらこのアルバムをプロデュースしたデンジャー・マウスという人のスタジオにこの映画のポスターが貼ってあって、それをいたく気に入ったノーラさんがそのデザインをジャケットに採用したということだったんですね。で、問題はこのアルバムのダウンロード・ハイレゾ音源。再生してみると、なんと「針音」が入っているのだった。
不思議な感じですなぁ。これがたとえばCDやテープ(ほぼ死語)ならこの針音は「シャレ」だったり「ダビングの結果」であることだってあるでしょう。しかしCDでもない、ダウンロードしたデジタル・データという、いわば実態のないものから「あたかもそこ、アナログ盤に針を落としたときの音」が聞こえてきたわけで、なにか道を歩いていて、曲がり角を曲がった場所で幽霊みたような気分になったというわけです。
いったいあのデジタル音源を作ったとき、その「針音」はどこから持ってきたのか。ひょっとして本当にアナログ盤を再生してそのままの音をリッピングしてデジタル化したんじゃないか。その前に針音はホンモノなのか、あるいはこれですらデジタルで合成したものであったりはしないか。これがもしデジタル合成音だったとしたら、さらに「ヤラレタ」気持ちは深まること必須。ん〜、オモシロイ。
いずれにしてもソレは意図的に挿入されたはずで、大まじめに(いや、その行為自体はシャレだったとしても)それをそこに添えているときのエンジニア、あるいはデンジャー・マウス(あぶないネズミ)氏の真剣な様子を想像して、チョイとおもしろくなったのは事実であります。
だいたいですね。この盤が「2枚組」なので針を「落とす音」と「上げる音」がそれぞれの面に入っている曲順に合わせて4回ずつ入ってるんですよ。シャレはそこまでやらないとやっぱりおもしろくない。コレを思いついた人は、僕を含めてそこに気づいて反応した人のことを知ったら、おそらくは「してやったり」と思うことでありましょう。この「ヤラレタ感」を本人に直接伝えることができなくて、大変残念ではあります。
ところでこの「ヤラレタ」感、外で呑み食いしているときにもしばしば感じるところで、自分では気づかなかった「酒の飲み方」や「ツマミの料理法」、「材料のあわせ方」に出会ったときのあの「おお! その手があったか!」と感じ入るときの新鮮な心持ちにとても似ています。
それを考案した人や行為そのものに敬意を払うと同時に、その「思いつき」につい顔がほころんでしまうのはやはりそれを作った人、考えた人の「おもしろくしたい」、「おいしくしたい」という気持ちの有り様に嬉しくなってしまうからなんですね。自分も常にそうありたい、そんな風に思わせたい……こう思うのは「ものを作る立場の人間」の習性といってもいいかもしれません。そう思ってもらえたら「冥利につきる」というわけです。
てなわけで今回の「簡単レシピ」は「冥利」ならぬ「茗荷」の柳川。この季節、高知産あたりが安くて嬉しい「茗荷」を使った一品です。もちろん熱々を頬張ったらほどよく冷やした日本酒でGO。冷やしすぎはダメですよ。夏のスイカのごとく井戸水程度の温度の水を張ったボウルに徳利を入れるのがよろしいようで、去りゆく夏を惜しんでいただきます。とはいえ今年に限ってはあまり「惜しんでる」人、いないですね。「夏はもうたくさん」と思ってる人が多いみたい。暑かったからねぇ。この次の掲載の頃には涼しくなっているかしら。
ところで件のノーラさんのこのアルバム。歌詞が全体的に「フラレ女の恨み節」みたいなことになっていてスゴイ。シングルカットされた“Happy Pills”のPVなんて火曜サスペンスみたいな物語になっています。これァこれだけで涼しくなるかも、な展開。いや〜ホントに女性ってコワイですね〜ブルブルっ! サイナラ、サイナラ
、サイナラ……てな調子でまた次回。あ、アルバム自体はよかったですよ(とってつけたよう)。
【Panjaめも】
●(※注1)EMI公式サイト
●映画監督ジョン・バダム氏による映画Mud Honeyの解説
後ろにオリジナルのポスターが見えます。もうジャケそっくり(笑)。
ちなみに僕はこの人の映画がわりと好きで、「張り込み」(リチャード・ドレイファスが好演)みたいな小作品がオススメです。それにしても「バード・オン・ワイヤー」とかごくマジメな映画を撮っている人(「ショート・サーキット」とか「サタデイナイト・フィーバー」みたいな娯楽作品もあるけれど)がこういう映画の解説をするのも意外ですね。ここらもオモシロイ。
●“Happy Pills”のPV。字幕表示で訳詞が読めます
けっこうスゴイ歌詞なんスよねー(笑)