トム・クルーズが出演した作品は多くあるが、“泣けるトム・クルーズ作品”となるとその数はグッと減る。本作は数少ないその“泣ける”一本だ。
軍人であるシュタウフェン・ベルク大佐(トム・クルーズ)は、悪行を重ねるヒトラーの打倒を目論んでいた。敵の攻撃で生死の境をさまよったのち、生還し、片目を失った彼は、その思いをより強くしていた。
そんなとき、彼はある作戦を思いつく。ワーグナーの楽曲にちなんだ既存の「ワルキューレ作戦」を利用し、それを巧妙に書き変え、ヒトラーの暗殺と政権の転覆を図ろうというものだったが…。
本作は実話である。そしてご存知のとおり、ヒトラーは自殺でこの世を去っている。ということは、この作戦は失敗に終わっているということは鑑賞前からわかっていることだ。
この作戦がなぜ失敗し、作戦の首謀者たちがどのような末路を迎えたか、そして当のヒトラーがどのようにのうのうと生き延びたかという“悲劇”を描いたのが本作である。
少し冷めた目で見るのならば、トム・クルーズ演じる主人公は焦りから早急に事を進めすぎたばかりか、自分がやったことを過信するあまりに、事実確認を怠って仲間を窮地に陥れてしまうという、トム・クルーズがよく演じるところのヒーローとはかけ離れた事態を引き起こす。
そんなずさんな進行にも関わらず、ある種のカリスマ性を備えた彼は部下からの信望を集めるが、やはりヒーローらしからぬヒーローの末路は当然悲惨なものとなり、志は無残にも遂げられることがない…
と書くとただただ悲惨なだけの物語のように思えるが、だが確かに彼はヒーローなのだ。結末をハッピーエンドにしてヒーローをヒーロー足らしめるのは簡単なこと。この“現実”をぶざまに描くことで、逆に観る者の心に確かな何かを残す。なし得なかったその希望が、我々の心でその結末を迎える。
家族の命より、そして自らの命よりも大切なものを守り抜いた彼らの高貴な魂を、ぜひ劇場でご確認いただきたい。
ワルキューレ(Blu-ray)
トム・クルーズ来日記者会見!
監督:ブライアン・シンガー
脚本:クリストファー・マッカリー&ネイサン・アレクサンダー
出演:トム・クルーズ /ケネス・ブラナー /ビル・ナイ/テレンス・スタンプ/カリス・ファン・ハウテン
配給:東宝東和
ジャンル:洋画
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