死とは、人生の終わりだ。その死をテーマに扱う映画とくれば、当然、重く暗く、観終わったあとにどっぷりと沈んでしまいそうな作品かと想像してしまう。だが本作はそんな先入観を見事に裏切る、心温まるヒューマンドラマなのだ。
東京でチェロ演奏家の仕事をリストラされた主人公(本木雅弘)は、失意に沈みながらも妻(広末涼子)とともに故郷の山形へ戻ることにする。再就職口を探す彼は、“年齢問わず、高給保証! 実質労働時間わずか。旅のお手伝い”との求人広告を見つけ、その社を訪れる。だがその広告は“安らかな旅立ちのお手伝い”の誤植で、業務内容は納棺の仕事だと社長(山崎努)から告げられる…。
死は誰の身にも平等に訪れる。そしてリストラも、悲しいかな、昨今では誰の身に降りかかってもおかしくないご時世だ。不老不死の願いが全人類共通であるように、そして明日のご飯に困らぬように、どちらもできれば避けて通りたいのが万人の願いだろう。この2つの事象を真正面から捉え、物語はテンポよく進んでいく。好きだったことが職業として成り立たなくなったどころか、差別や偏見の目で見られる厳しい職業に就いてしまう主人公。あたかも天国から地獄に堕ちてしまったかに見えるそんな人生でも、主人公のように自分の職業を愛して愛して愛しまくれば、地獄であるはずのそこは、気づけば天国へと変わっていくのである。
職業に上も下もない。たとえ偉そうな職種に身を置いていても、そこにあぐらをかき周囲の人間を蔑んでいたりするならば、そこは地獄だ。だが、社会的に高くないといわれる職種であっても、その仕事に誇りを持ち、出会う人々の幸せを願いながら仕事をするならば、そこは天国なのだ。職業に貴賎なし…当たり前なのにすぐに忘れてしまいがちなこの言葉の意味を再認識させてくれる、尊い尊い作品だ。
おくりびと(DVD)
監督:滝田洋二郎
脚本:小山薫堂
出演:本木雅弘 /広末涼子 /山崎努
ジャンル:邦画
© 2008 映画「おくりびと」製作委員会