スカイ・クロラ The Sky Crawlers

20080804132656picm.jpg 夏の空の青さというものは、他の季節のそれよりも一段と濃く、そして深く感じる。どこまでもどこまでも高く、遠く、空の上にある別世界は目を向ける者の心をも飲み込んでいく。その空を舞台に、圧倒的な映像力で「生きることの意味」を問うのが本作だ。

20080804132656pic1.jpg いくつかの大戦ののちにつかの間の平和を謳歌している、現代とよく似た時代。平和を実感するために人々は「ショーとしての戦争」を求めた。戦闘機のパイロットとして戦うのは“キルドレ”と呼ばれる、年をとらない子供たち。キルドレである主人公は前線基地に配属されるが、基地に赴任する以前の記憶がまったくなかった…。

攻殻機動隊』『イノセンス』など、日本はおろか全世界の映画人たちを虜にし、あの『マトリックス』にさえも影響を与えた押井守監督の最新作だ。一人娘を持った監督は56歳になり、今のこの時代に「何か」を伝えたい作品を作りたかったという。

まるで海を泳ぐかのように舞い踊るパイロットたち。空はただただ美しく、何の穢れもない。戦闘機の流線型も悲しいほどに滑らかで穏やかだ。これが“仕組まれた殺人”でなかったのならば、純粋な心のままにこの映像を見続け、堪能できたのだろう。

「転生輪廻」という言葉がある。死後、魂は別の肉体に宿り、新しい人生で生まれ変わるという説だ。その説でいけば、私たちも過去のどこかで別の人生を何度も何度も送っていたことになる。生まれつき持っている性質…例えば文学が好きであるとかスポーツが得意であるとか、そうした先天的な性質は過去の転生の過程で魂に染み付いたものであるとする説もある。例え体を失ったとしても生き続ける何か。だとするならば、悪戯に死を恐れる必要はない。死ねば何もかも終わり…などという刹那的思考を持って将来を憂う必要もない。走って走って走り続け、もう走れなくなったその時には、次のランナーにバトンを渡せばいい。自分と同じ魂を持った、そのランナーに。
CGを最大限に活用し、これがアニメか? と目を疑うほどの洗練された映像美。一方で今年は海を舞台にした『崖の上のポニョ』の宮崎アニメが、CGを一切使わない画風で勝負する。奇しくも、今年はヴェネチア映画祭に2作とも出品されるとのこと。空と海、華麗なるCG映像とCG不使用の手書きアニメ。この2作を見比べてみるのも、素敵な夏の過ごし方かもしれない。

スカイ・クロラ(Blu-ray)
スカイ・クロラ(単行本)
原作:森 博嗣『スカイ・クロラ』
監督:押井 守
出演:菊池凛子 /加瀬亮 /谷原章介
ジャンル:邦画
公式サイト:http://sky.crawlers.jp/tsushin/

© 2008 森 博嗣/『スカイ・クロラ』 製作委員会