カポーティ

ティファニーで朝食を」などの傑作小説を生み、没後20年以上を経て今なお天才作家の呼び名をほしいままにしている、トルーマン・カポーティ。カンザス州の田舎町で農家の一家4人が惨殺された凄惨な事件を題材に、ノンフィクション小説「冷血」を書き上げんとするカポーティの精神的苦痛を描きだす秀作だ。

例えばこれが、結婚や出産などの幸せな出来事を題材にして作品を書いたのならば、カポーティはここまで没落することはなかったであろう。だが、彼は人の不幸を題材にしてしまった。しかも“殺人”という、この世界で一番忌まわしい行為を綿密に調べ上げてしまったのだ。否、調べるだけならまだいい。彼はそれを商材として仕入れ、出版して利益を上げようとしたのだ。人の不幸で飯を食おうとしたのだ。たとえその小説が芸術作品として昇華されていたとしても、その根底だけは変わらない。

作家業を生業とする彼は、よくある芸術家の例に漏れず感受性が豊かだった。
忌まわしい出来事にずっぽりとその身を埋めてしまったがために、その沼から抜け出すことは困難だったのだろう。何より、人の不幸を食い扶持にしてしまったという罪悪感が、彼のその後の人生を暗澹たるものにしてしまったのではないか。“亡霊”という概念があったのなら、それにも一生悩まされ続けただろう。“書く”という行為は、かくも命がけなのだ。

マグノリア』『レッド・ドラゴン』『M:I:III』で演技派としての評価を着実に高めてきた主演のフィリップ・シーモア・ホフマンがアカデミー賞主演男優賞を受賞するほか、作品賞、監督賞など、主要5部門へのノミネートも果たしている本作。カポーティ作品とあわせて堪能したい一品だ。

先日、プロモーションのために来日したベネット・ミラー監督は、「カポーティが破滅に陥っていくという彼自身の悲劇だけでなく、個人、企業、国にも通じるアメリカの悲劇が脚本に描かれていたから」この時代にカポーティを撮ろうとしたのだと語った。

カポーティ コレクターズ・エディション(DVD)
監督:ベネット・ミラー
脚本:ダン・フッターマン
出演:フィリップ・シーモア/ホフマン(製作総指揮)/キャサリン・キーナー
ジャンル:洋画
公式サイト:http://bd-dvd.sonypictures.jp/capote/