悪の法則

20131115cpicm.jpgブラッド・ピット、マイケル・ファスベンダー、キャメロン・ディアス、ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス。豪華な主役級の面々を巨匠リドリー・スコット監督が招集し、セレブリティたちの裏稼業の実態を事細かにスクリーンに曝け出す、衝撃の心理サスペンス。果たしてこれは現実なのか? そう、残念ながらこれは現実なのだ。

メキシコ国境に近いテキサスで弁護士業を営む男(マイケル・ファスベンダー)は、フライト・アテンダントの恋人(ペネロペ・クルス)との結婚を決意する。愛の証として高価なダイヤモンドの指輪を差し出してプロポーズするが、恋人には内緒で裏社会でのビジネスに手を染め始めていた……。

20131115cpic1.jpg脚本は『ノーカントリー 』、『ザ・ロード 』のコーマック・マッカーシー書き下ろしによる映画オリジナルのもの。監督のリドリー・スコットは、ロンドンでの記者会見で「いい素材が向こうからやってきた試しはない。35年間の映画制作の経験でも、いい脚本が机の上に置かれていたことはなかった。自分が開発したもの以外はね。この作品が初めてだったよ」と、脚本をべた褒めする。事実、今回もマッカーシーの脚本は凄い。血も涙もない残酷描写といい、説明することなく本質を悟らせる台詞使いといい、救いのないストーリー展開といい、スクリーンに映し出されるのは豪華な生活とは裏腹の、身の毛もよだつ“現実”ばかりだ。この凄い脚本だからこそ、この監督が動き、このキャストが集結するのだ。

原題は「THE COUNSELOR」。ファスベンダーが演じる弁護士を指したものだ。実はこの弁護士は劇中で名前を呼ばれることがない。この人物を名指ししないことにより、彼を取り巻く事態は誰にでも起こりうるということを暗に示唆しているのだろう。

原題の痕跡をまったく残さずに、邦題は『悪の法則』となっている。このタイトルに関連づけて「誰が悪か?」を重点に宣伝も展開されているようだが、物語の本質はそこではない。黒幕が誰かは早い段階でわかってしまうし、それを解き明かす映画でもない。何度も言うが、残念ながらこの映画で描かれていることは現実だ。金だけが目当てのサイコパスは存在するし、そうした人間が要所要所を陰で牛耳っている。その現実を、何も知らずに幸せに暮らしている一般庶民に突きつけるのが本作の本質なのだ。

金のある連中が人を大金で雇い、自分の趣味のために人間を実際に殺させ、その模様を映像に収めたスナッフ・フィルム。財力を駆使しているがために、彼らは捕まることもなく、その映像が世の中に出回ることもない。都市伝説といってしまえばそれまでだが、本作ではそのスナッフ・フィルムも重要なファクターとなっている。完成披露試写時点の字幕では、残念ながらこのスナッフ・フィルムが「殺人“映画”」と訳されていた。「映画」となると創作物であり、ジャンルとしての殺人ものしか観客の頭に浮かばない可能性がある。そうなるとラストのあのシーンの意味がわからずにチンプンカンプンになってしまう人が続出するのではないか(実際、近くにいた女子たちからは「あれなんだったの?」との会話が聞こえた)。念のため映画会社に、「殺人映像」や「殺人ビデオ」「殺人フィルム」等への字幕変更を提言したのだが、その後あの字幕はどうなっただろう。公開前に直っていればいいのだが。


監督:リドリー・スコット
脚本:コーマック・マッカーシー
出演:ブラッド・ピット/マイケル・ファスベンダー/キャメロン・ディアス/ハビエル・バルデム/ペネロペ・クルス
配給:20世紀フォックス映画
公式HP:http://www.foxmovies.jp/akuno-housoku/
公開:11月15日(土)よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー
 

©2013 Twentieth Century Fox Film Corporation

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