ブラッド・ピットが主演のみならずプロデュースも行ない、クールな殺し屋を演じた本作。カンヌで大絶賛されたこのギャング映画の中で、男はノルマをこなすかのように淡々と銃を操る。
賭場での強盗犯に制裁を下すため、一人の殺し屋が雇われる。彼の名はジャッキー・コーガン(ブラッド・ピット)。なかなか黒幕がハッキリしない案件だったが、とある情報筋から真犯人の目星をつけた彼は“仕事”のために動き出す……。
原題は『Killing Them Softly』。誰がどう聞いても『キリング・ミー・ソフトリー(Killing Me Softly)』をもじったとしか思えない。せっかくの大ヒット作にあやかって邦題もこのままカタカナで『キリング・ゼム・ソフトリー』にすればいいのに……と鑑賞前は思ったものだが、内容は『キリング・ミー〜』とはまったくの別物。ジャッキーという男がどういった哲学で殺し屋稼業を営んでいるのかが根幹となっているから、意外にも邦題の方が内容をピタリと言い当てているのかもしれない。
ジャッキーは天使でも悪魔でもサイコパスでもない。天性のビジネスマンだ。殺しという行為も、彼にとっては“作業”だ。感情を介在させず、淡々と目標をこなす。それが彼にとっての“仕事”だからだ。仕事であるからにはよりスマートに作業をこなし、リスクは極力とらない。仕事が成功するためなら、非情な手段をとることもモラルを犯すことも厭わない。組織の命令を受けずに何事も一人で判断し、ターゲットの数をクライアントに交渉したり、同業者に外注しようとしたりするあたり、個人事業主といったところか。
ストーリーに並行してオバマの演説がテレビやラジオから流れる。これと本編との因果関係を探りながら観ていると、ラストでジャッキーがある言葉を口にする。そしてすべてが繋がる。彼が殺しを行なうスタンスが、ものの見事に腑に落ちていくのだ。
裏社会で交わされる様々な会話、強奪現場の緊迫感、クスリをキメちゃった感じ、これ役者さんホントに怪我しちゃってるんじゃないの? と心配するほどの暴力シーン等々、そんなことは平凡な市民の私は体験したことはないのだが、リアルでは本当にこんな感じなんだろうな、と納得させてくれる巧みな描写にも唸らせられる。リチャード・ジェンキンスらの鉄板俳優らも脇を固め、惜しげもなく名演を見せてくれる逸品。
原作:ジョージ・V・ヒギンズ(『ジャッキー・コーガン』ハヤカワ文庫)
監督・脚本:アンドリュー・ドミニク
脚本:ルーシー・アリバー/ベイ・ザイトリン
出演:ブラッド・ピット/スクート・マクネイリー/ベン・メンデルスゾーン/リチャード・ジェンキンス
配給:プレシディオ
公開:4月26日(金)よりTOHOシネマズみゆき座他全国ロードショー
公式HP:www.jackie-cogan.jp
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