ベストセラー・ミステリー『悪の教典 』が、ついに実写映画化! 表は真面目でさわやかな英語教師、裏は残忍な殺人鬼という難しい役どころを、『海猿 』での好青年ぶりが板についた伊藤英明が怪演。『クローズZERO 』シリーズ等、バイオレンスシーンの演出で絶大な実力を見せつける三池崇史監督が、鮮血の狂夜をリアリスティックに描く問題作。
“ハスミン”という愛称で呼ばれ、生徒や同僚の教師、PTAからの人気をも誇る高校英語教師、蓮実聖司。だがそれはあくまでも表の顔であり、実際の彼は他人への共感能力をまったく持ち合わせていない、生まれながらのサイコパス(反社会性人格障害)だった。目的のためには殺人でも厭わない彼は、目前に立ちはだかる“問題”を彼なりの方法で“解決”していく。そんな矢先、小さなほころびから裏の顔が露呈してしまう……。
予想を遥かに上回り、伊藤英明の演技が素晴らしい。監督自身、伊藤のことを「アンソニー・ホプキンスか伊藤英明かという」、「サイコパスを演じさせたら世界で1、2を争う役者」と述べている。これがただの宣伝文句と思いきや、さにあらず。特に、銃声によってやられた自身の耳を確認するあたりからの“スイッチが入った感”がハンパない。本作が伊藤にとって飛躍の大きなステップになることは間違いないだろう。
伊藤英明の他、日本の映画界で今や欠かせない存在である山田孝之も教師役で登場。とある楽器を慣れた手つきで演奏するシーンには、「あれ? この人こんなこと出来たっけ?」と釘付け。高校生役の各人も、ありがちなオペラチックな台詞回しにはなっておらず、それぞれの恐怖を表現しきっている。特に問題児役を演じたKENTAがイイ。ダルビッシュ有の実弟だが、ナントカの七光りなんぞなくとも、今後充分に実力で立ち回っていけそうなオーラがビシバシ。他の主要キャストも、伊藤との掛け合いで絶妙な空気感を不穏に漂わせてくれている。
ミステリー本好きの方々ならば原作はとっくの昔にチェック済だろう。「2010年ミステリーベスト10」、「このミステリーがすごい! 2011」でともに第一位を獲得した原作だが、例に漏れず私も昼夜を惜しんでドップリとハマった。蓮実がどういう思考を経てあの狂夜を迎えるに至るのか、その過程はまったく無理がなく非常に自然で、だからこそなおのこと、戦慄を覚えずにはいられなかった。
だが、映画という表現方法の性質上、役者に語らせるかテロップをつけるかしなければ、表情だけではその思考の推移は描けない。原作を知らずに映画だけを観たならば、殺人好きの蓮実が突然狂ってあの大量殺人を凶行したかのように思えてしまうだろう。説明がすぎるよりもこれくらいのほうが余韻があっていいのかもしれないが、別売のDVD もそのあたりを補完するものではなかったのが、少し残念といえば残念。とはいえこの特別な質感は、紛れもなく傑作と称するに値する上質な作品なのである。
原作:貴志祐介「悪の教典」(文藝春秋刊)
監督・脚本:三池崇史
出演:伊藤英明/二階堂ふみ/染谷将太/林遣都/浅香航大/水野絵梨奈/山田孝之/平岳大/吹越満
配給:東宝
公開:11月10日(土)全国東宝系ロードショー
公式HP:http://www.akunokyouten.com/
©2012「悪の教典」製作委員会