「二度と戦争を起こさないために」という名目で政府によって開かれる、少年少女たちの殺し合いショー。衝撃の設定から全米で多くの読者を魅了したばかりか、あのスティーヴン・キングにまで「中毒になるほど面白い」とまで言わしめた大ベストセラー小説を実写映画化。『ハリー・ポッター 』、『ロード・オブ・ザ・リング 』にも迫る、空前の大ヒットシリーズの誕生だ。
北米の巨大独裁国家パネム。74年前の反乱戦争で荒廃した歴史を持つこの国は、国民を完全服従させるために「ハンガー・ゲーム」を毎年執り行っている。これは12地区からそれぞれ男女を無作為に選び、生存者が最後の一人になるまで殺し合いをさせるゲームで、勝者には巨額の富を手にすることができる。また、全国民はテレビでその模様を観ることを義務付けられている。12歳の幼い妹を可愛がる姉のカットニスもまた、プレイヤー抽選会へと思い足を運ぶが……。
主役のカットニスを演じるのは、『ウィンターズ・ボーン 』でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、その後『X-MEN:ファースト・ジェネレーション 』等へのハリウッドへの進出も著しいジェニファー・ローレンス。家族のためなら自分の身を犠牲にすることさえ厭わない姿勢、そして狩りが得意で野性味あふれる点などが『ウィンターズ・ボーン』を彷彿とさせる。顔立ちは美しいのに、それを飾らない朴訥さが印象的だ。
他にも、ミュージシャンでもあると同時に役者としての顔も板についてきたレニー・クラヴィッツが、人間としての尊厳を忘れないカリスマ的スタイリストを演じたり、『ラブリーボーン 』の怪演で魅せたスタンリー・トゥッチが癖のある司会者に扮したり、『ゾンビランド 』、『ノーカントリー 』で演技派として実力を評価されるウディ・ハレルソンが今回も個性派としての本領を発揮したりするなど、共演者も多彩。『アベンジャーズ 』でのソー役のクリス・ヘムズワースの弟、リアム・ヘムズワースの出番が少なかったが、次作以降に期待といったところか。個人的には、『エスター 』以来あまり見かけなかったイザベル・ファーマンが、またもやコ憎たらしい役を炸裂させていたのが大満足。
一作の映画の物語としての達成感で言えば、やや不満が残る。本編が終わるや否や「『ハンガー・ゲーム2』日本公開決定!」とスーパーが出るくらいだから、否応なしに次への期待が高まってしまうではないか。本作で満足の行く終わり方をしてしまっては次に続かないのだから、商業的にはそれでしょうがないと言ってしまえばそれまでだが、腹八分目ならぬ「三分目」くらいなものだから、観る方としては欲求不満に陥ってしまう。
ちなみに『バトル・ロワイアル 』と似ているとの指摘が本国でも巻き上がったそうだが、PG-12指定と言ってもさほど過激なシーンは出てこない。シーンの残虐性の観点から言えば、今どきは小学生でも鑑賞に堪えうるレベル。ただストーリーは過激なので、やはり多感なお子様には注意が必要だろう。
このゲーム自体が人間としての倫理から逸脱しているのは言うまでもない。だが、それ以上に異様に思えたのは、ゲームに熱狂する観客らの恍惚とした表情や歓声だ。
世界各国や、そして日本でも江戸時代には公開処刑が見世物として存在していたというから、人間の本能にはそうした残虐性が潜んでいるのかもしれない。本能のままに生きるのなら、人間は食べたいだけ食べ、伴侶以外の者との性行もしたいだけして、憎い者は殺し、気に入らない者は苛めるという地獄が展開するだろう。本作が指すところの「ハンガー」はプレイヤーが「飢え」と戦うという意味だが、政府も民衆もまた、血に飢えている。
だが、理性によってそうした行為を封じ込めていることが人間としての尊厳だ。そして本作にも、僅かな数ながらそうした人間が大きな輝きを放っている。そこにこそ希望がある。
圧倒的な貧富の差、お上の言うがままに飼いならされた民衆たちの愚かさ、過激なシーンをはやし立てるマスコミ。近未来の描写にも関わらず、現代の日本をはじめとした先進国そのものにも思える本作は、確かな気づきを私たちに与えてくれるだろう。
原作:スーザン・コリンズ『ハンガー・ゲーム』(メディアファクトリー刊)
監督:ゲイリー・ロス
脚本:ゲイリー・ロス/スーザン・コリンズ/ビリー・レイ
出演:ジェニファー・ローレンス/ジョシュ・ハッチャーソン/リアム・ヘムズワース/ウディ・ハレルソン/エリザベス・バンクス/レニー・クラヴィッツ/スタンリー・トゥッチ/ドナルド・サザーランド
公開:9月28日(金)より、TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
公式HP:www.hungergames.jp
©2012 LIONS GATE FILMS INC. ALL RITGTS RESERVED.