ヘルタースケルター

20120711cpicm.jpg「別に」発言からワイドショーの人気者になった沢尻エリカが久々に本業の女優業に挑み、全身整形のトップスターが送る壮絶な人生を綴った大ヒットコミック『ヘルタースケルター』を原作に、フォトグラファーとして絶大な人気を誇る蜷川実花が監督した話題作。

20120711cpic1.jpgその美しさから芸能界のトップスターとして走り続ける、りりこ(沢尻エリカ)。だが彼女はその栄光の裏にとんでもない秘密を抱えていた。顔はおろか、その体さえ整形して類稀なる美貌を手に入れていたのだ。その秘密を知るのは事務所社長(桃井かおり)とヘアメイク係の二人だけで、りりこに付きっきりのマネージャー(寺島しのぶ)もその事実を知らない。そんな折、整形の後遺症がりりこの体に異変を起こし始める……。

作品や演技よりも、私生活で注目を集める沢尻。製作側としてはさほどの宣伝資金を投入しなくとも勝手にマスコミが取り上げてくれるから、その点では嬉しい限りだろう。撮影後の長期療養は大麻疑惑も飛び交い、体調が復活することを見込んだ7月5日のジャパンプレミアも欠席(ぁ、これも元々のシナリオか?)。役にのめりこみすぎた沢尻が撮影後も私生活でりりこの傲慢さで周囲に振る舞い、それに舌を巻いたスタッフらの苦肉の策が今回の療養の真相なのではないか。

肝心の中身はといえば、オッパイは出すわ、テレビ放映されたなら「ピー」音で消されるようなセリフを臆面もなく口にするわ、エロいシーンもなかなかリアルに見えるわ、性格は悪いわで、ワイドショーの中の沢尻と完全にダブって違和感がない。監督は「沢尻にしかこの役はできない」として起用を決めたそうだが、まさにその通りだ。毒々しく調整された色合いが、栄光と挫折と嫉妬にまみれた芸能界をより狂った世界に仕立て上げる。このあたりは蜷川の真骨頂だろう。ちなみに蜷川本人もカメオで出演。

惜しむらくは、大森南朋の演技。別に下手だとは言わないが、他の出演者全員がナチュラルでリアルな演技をする中、彼だけがポッカリと違う次元にいるかのような言い回しで、せっかくこちらが作品にのめり込んでいるのにその演技を目の当たりにするとスーッと醒めていってしまう。これは監督の演技指導か? はたまた、監督は大森に好きにやらせただけなのか? 残念でならない。

20120711cpic2.jpgまた、「マスコミ試写が空前の盛況」として他誌が書いているが、余談ながらこれのカラクリを説明させていただく。確かに、通常のマスコミ試写に足を運ぶ映画ライター以外に、普段映画には馴染みのない芸能系のジャーナリストにも、製作側は多数の招待状を発行していただろう。にしても、だ。試写の回数が通常の作品よりも圧倒的に少なく、会場のキャパも毎回が超ド級の大人数収容クラスではない。そんな中、天候の良いお日柄もよろしい日の試写ならば、それは入れないほど人が殺到するに決まっている。現に雨の日に行った私なんかは、時間ギリギリに到着しても余裕で座れたほどだ。そのあたりの事情を知らない芸能系の媒体は映画会社の言を鵜呑みにし、この記事を書き上げたのだろう。何も知らない一般人からすれば、「そんなに評判なのか、じゃ観に行こう」となる。これはこの媒体が騙されただけなのか、それとも巧妙な宣伝作戦なのか。いずれにしても功を奏していることには変わりがないのだが。

苦言がてらもうひとつ言わせていただくとすれば、テーマソングだ。沢尻はコンプライアンス違反を理由に(週刊文春誌取材によれば大麻の陽性反応により)スターダストプロモーションを解雇され、現在はエイベックスに所属している。だからといって、やはりエイベックス所属の浜崎あゆみの曲を、劇中の最後の方にほんのさわり程度にしか流さないにも関わらず、堂々と「テーマソング」として載っけるこのゴリ押しはいかがなものか。

と、言いたい放題書かせていただいたが、それもこれも映画自体はなかなか面白かったからである。上映時間が2時間を超えているとは感じられないほど作品に没頭してしまったのだ。整形と言えば、AKBがセーケービーと言われるように、そして韓国のKARAも、はたまた芸能人でない一般人にも整形が流行っている昨今。私は幸か不幸か整形をしたことはないが、だが整形でこの余分な脂肪がどうにかなるなら、金さえあればやってみたいものだ。だから女なら誰しも、りりこの心情を理解できるはず。自分とりりこを重ね合わせつつ、実はこの作品にはなかなかの愛情を感じているのだ。同じ「老いていく」女として。


原作:『ヘルタースケルター』(祥伝社フィールコミックス)
監督:蜷川実花
脚本:金子ありさ
出演:沢尻エリカ、大森南朋、寺島しのぶ、綾野剛、水原希子、新井浩文、鈴木杏(友情出演)、寺島進/哀川翔/窪塚洋介(友情出演)、原田美枝子、桃井かおり
配給:アスミック・エース
公開:7月14日(土)、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
公式HP:http://hs-movie.com/
 

©2012 映画『ヘルタースケルター』製作委員会