ブラック・ブレッド

20120703cpicm.jpg裕福な者は白く柔らかいパンを食べ、貧乏人は硬く黒いパン(ブラック・ブレッド)を食べることしか許されない……。内戦後のスペインを舞台に、少年の目を通して人間の心の闇をあぶりだす本作。今年のアカデミー賞では巨匠ペドロ・アルモドバルを押しのけて外国語映画賞スペイン代表となり、本国スペイン・アカデミー賞でも最多9部門を受賞したダーク・ミステリー。

20120703cpic1.jpg1940年代、スペイン内戦後のカタルーニャ。勝ち組と負け組が入り混じりながら暮らす小さな村で、少年アンドレウは息絶え絶えの親子を森の中で見つける。血まみれの子どもから発せられた最後の言葉「ピトルリウア」。それは、森の洞窟に棲むと噂される怪物の名前だった……。

今では逆に玄米のほうが栄養豊富でヘルシー指向の方々にはもてはやされる時代だが、日本でも、昔は白米のほうが貴重で、金持ちが食べるものだった。その傾向は小麦が主食のヨーロッパ諸国でも同じだったのだ。手間がかかるがその分、雑味がなくなりおいしいと感じるからだろう。

本作は内戦後が舞台とはいえ、政治的な内容とはなっていない。あまで人間ドラマに焦点を当てて丹念に、そして残酷なシーンも潔くリアルに作られている。貧乏な家庭に育った少年が、貧乏ゆえに飲み込まれ、身動きがとれなくなっていく不条理な泥の海。大切なものを犠牲にしなければ抜け出すことのできないこの泥から、少年は死にもの狂いで抜け出そうとする。だが、その苦しみから逃れるためには、自分自身が泥に成り果ててしまうしかないのだ。たとえ自分の心をその泥に捨てることになったとしても。お金があれば大抵の悩みは解決されるというが、まさにアンドレウや彼らを取り巻く家族たちの人生がそれだ。

その大役を演じたのは、本作が映画デビュー作となる新人、フランセスク・クルメ。これが初出演とは思えない堂々の演技っぷりで、初めは純真だった少年が次第に屈折していく様を見事に表現しきっている。ラスト、真実を知った彼の表情が今でも忘れられない。ジュード・ロウ似の父親が無理やり作って息子に見せたあの笑顔も。

スペインのデヴィット・リンチとも評される監督のその手法は、言葉少なくともその時代の息苦しさをもそのままに我々に伝えてくれる。否、その時代だけではない。どの時代、どの国においても、自分の力だけではどうすることもできない、運命がもたらす理不尽な匙加減をも。


監督・脚本:アグスティー・ビジャロンガ
原作:エミリ・タシドール
出演:フランセスク・クルメ/マリナ・コマス/ノラ・ナパス/ルジェ・カザマジョ
配給:アルシネテラン
公開:6月23日(土)、銀座テアトルシネマ、ヒューマントラストシネマ渋谷他、全国順次ロードショー
公式HP:http://www.alcine-terran.com/blackbread/
 

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