治安のいいこの日本にぬくぬくと育ってきた私を含め、多くの読者諸氏には信じられないかもしれないが、本作の舞台であるアメリカのボストンは、まるで家業のように銀行強盗が父から子へと受け継がれる街だ。この街に生まれ育ち、消去法的選択で家業をこなす男の運命が自らの運命を「変える」瞬間を、ベン・アフレックが主演・監督・共同脚本にて体現する。
ボストンの一角、チャールズタウンは通称“タウン”と呼ばれ、アメリカで強盗犯罪がいちばん多い街。ダグ(ベン・アフレック)は銀行強盗グループのリーダーとして証拠を一切残さない頭脳戦を仕組み、完璧な犯罪を毎回こなしていた。だが、とある日の銀行襲撃で思いもよらぬ事態が発生する。仲間のジェムが独断で支店長を人質に取ってしまったのだ…。
ベン・アフレックが脚本と聞くと、真っ先にマット・デイモンとの共同脚本『グッド・ウィル・ハンティング』を思い出す。あの作品も屈折した環境にある主人公が人生を上がっていくサクセス・ストーリーだが、本作はもっとダークで救いようのない場所からの脱出劇だ。父親は終身刑、母親は6歳の時に家出、プロ・ホッケー選手になる夢にも破れたという残念な人生のダグ。だが、とある出会いに最後の望みをかけ、このまま行けば銃撃戦で殺されるかムショ行きかという二択しかない今の人生から足を洗おうとする。強盗団の手際のディテールやアクションは鮮やかな切れ味で、手に汗握り目もスクリーンに釘づけになる。また、父親役にはクリス・クーパー、強盗団を仕切る花屋のオヤジ役にはピート・ポスルスウェイトとが配され、並々ならぬ存在感で観る者を圧倒する。特にクリス・クーパーが醸し出す絶望感、相手を圧倒する目力は、秀逸以外の何物でもない。FBI特別捜査官役のジョン・ハムも、あんなにイケメンで完璧に見えつつ、どこか隠し味程度に抜けているように見えてそのバランスが絶妙だ。ジェム(ジェレミー・レナー)の最期も圧巻。
ただ、クライマックスまでは素晴らしいのに、ラストのオチがハリウッド然としてしまったのは甚だ残念。盗んだ金でアレをやって誰が喜ぶというのだろう。主人公の行く先を見届けても釈然としない。あれはベンの意向だったのか、それともハリウッド重役たちに捻じ曲げられてしまったのか。いずれにせよ、子供たちに観せる際には充分な説明が必要だろう。
生まれ落ちた場所は自分で選べず、まして自らが犯した過去の事実は消しようがない。それでも運命に果敢に立ち向かおうとする彼の姿に、自らの人生を重ね合わせて観る人も多いだろう。迫力のシーンや絶妙な心理戦は、役者の息遣いや微妙な表情も感じ取れる大スクリーンの劇場での観覧をお勧めしたい。
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強盗こそ、われらが宿命(文庫)
原作:チャック・ホーガン『強盗こそ、われらが宿命』
監督:ベン・アフレック
脚本:ベン・アフレック/ピーター・クレイグ/アーロン・ストッカード
出演:ベン・アフレック /レベッカ・ホール ジョン・ハム/ジェレミー・レナー/ブレイク・ライブリー/タイタス・ウェリバー/ピート・ポスルスウェイト/クリス・クーパー
配給:ワーナー・ブラザース映画
ジャンル:洋画
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/thetown/
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