悪夢のエレベーター

いやいやいや、断じて提灯記事ではない。本作こそ“ベタ褒め”に値する傑作だ。

緊急停止したエレベーターに閉じ込められた4人。妻の出産立会いに急ぐ男、刑務所帰りの男、他人の心が読める超能力者の男、そして自殺願望を持つゴスロリ少女。助けを呼ぶ手段のない赤の他人同士は、生き残る方法を模索しつつ、信頼関係を結んで助け合うためにお互いの秘密を暴露し始めるが……。

劇団の主宰者である木下半太原作のベストセラー小説をもとにした本作。そして、芸人出身でありながら構成作家や役者としての活動も精力的にこなし、本作で長編デビューを飾った堀部圭亮が、ものの見事な監督っぷりを見せつけてくれた。やられた! としか言いようがない。
ストーリーもさることながら、カメラワークなどの細部に渡る心遣い、最高のキャスティングなど、何から何まで完璧だ。特に新進気鋭の大注目女優・佐津川愛美(『蝉しぐれ』『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』)は、凄い。その瞳の奥で無言のうちに語られる悲しみ、自分を取り巻く世界に絶望した苦しみ。観おわったあとに「もう一度観たい」と思わせてくれるのも、彼女の瞳の魔力に拠るところが大きいのだろう。

映画ライターたるもの、安易に「面白い」などという言葉は使いたくない。だがしかし、だがしかし。本作でその言葉を使わずして、いったいどの作品で使えばいいというのだ? はっきり言わせていただくが、本作は「面白い」。できれば原作を読む前に、何の予備知識も持たずに劇場を訪れていただきたい。嘘のデパートに並べられた煌びやかな品物たちを、思う存分手に取って楽しんでいただきたい。閉店のメロディが鳴り響き、文字通り衝撃の事実が告げられて店を追われる、その瞬間まで。

悪夢のエレベーター(DVD)
悪夢のエレベーター(文庫)
キャスト&監督、タイトルどおりエレベーターから登場で記者会見!
原作:木下半太『悪夢のエレベーター』
監督:堀部圭亮
脚本:堀部圭亮/鈴木謙一
出演:内野聖陽 /佐津川愛美 /モト冬樹/斎藤工/大堀こういち/芦名星/本上まなみ
配給:日活
ジャンル:邦画
公式サイト:http://www.akumu11.jp/

© 2009「悪夢のエレベーター」製作委員会