脳死での臓器提供が、まるで献血のように軽い感覚のプライオリティで語られがちな昨今。そんな風潮に一石を投じるのが本作だ。
白血病の姉を救うため、ドナーとして“創られ”生まれてきた妹、アナ。アナを含めた家族の誰もが、ともに姉の存命を願っていたはずの仲睦まじい理想的家庭がそこにあった。だがある日突然、11歳のアナは自分の身を守るために両親を訴える。驚愕した両親はアナを説得し始める。だが、アナの意志は強固だった。そのことは当然、遠からぬ未来に姉の命を奪うことを知っているにも関わらず……。
脳死問題といえば、エコと並んで今や国民の関心事である。また、多くのマスコミ報道では脳死での臓器提供があたかも“善”かのように語られ、視聴者や読者の意識を扇動しているように見受けられる。確かに、本当に脳の死が人の死であるならば、それは尊い行為だろう。自分が要らなくなったものを誰かに使ってもらうというのは、ある意味リサイクル的発想からくるエコにも通じるのだろうか。ましてやその行為が人命を救うとなれば、多くの善意者は脳死での臓器提供に賛同することだろう。
だが一方、“脳死から生き返った例”というのも少なからずあるという。中には4歳で脳死診断後、20年心臓が動き続けたという驚きの症例もあるし、身体反応というアウトプットができないだけで、身体への刺激というインプット機能は残っているという説もある。臓器移植法のA案が可決されたことはまだ記憶に新しいが、もしも脳死が本当に人の死であるのなら、その判定基準自体にまだまだ発展の余地があるのではないか。また、そもそも人の死は国会の多数決で定義づけられるものなのだろうか? 賛同者と反対者の比率が変わっただけで覆るような判断基準で、“死”という尊い基準を決め付けてしまってよいのだろうか? もっと医学の進歩を待ってからでも遅くはないのではないか? 提供する側が、安らかな寝顔の下で実は断末魔の叫びをあげ、そして“死”に至らしめるのであるならば。
本作が訴えているのも、まさにその点だ。誰かを犠牲にしてまで、自分が生きながらえることにどれだけの価値があるのか。その措置を阻むことは逆に尊いことなのではないか。母親役に初めて挑んだキャメロン・ディアスの確かな演技とともに、様々な疑問点を観客の心の中に目覚めさせてくれる映画だ。
観賞の際に受け取ったパンフレットには、ドナー登録カードがあった。足を踏まれただけでも痛い私は、声を出せない状態で自分の体にメスを入れられたら必ずや痛がり、そして相手を恨むだろう。先に挙げたそんな理由から、私はドナー登録をしていない。私は医学の進歩を待ちたい、正しい真実を知りたい。ただそれだけなのだ。
私の中のあなた(Blu-ray)
私の中のあなた(文庫)
監督:ニック・カサヴェテス
脚本:ジェレミー・レヴェン/ニック・カサヴェテス
出演:キャメロン・ディアス /アビゲイル・ブレスリン /アレック・ボールドウィン/ジェイソン・パトリック/ソフィア・ヴァジリーヴァ/へザー・ウォールクィスト/ジョーン・キューザック
配給:ギャガ・コミュニケーションズ Powered by ヒューマックスシネマ
ジャンル:洋画
公式サイト:http://watashino.gaga.ne.jp/
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