HACHI 約束の犬

忠犬ハチ公”の物語を知らない日本人もいないであろう。渋谷駅でよく待ち合わせに使われる、あのハチ公像のモデルだ。まだ大正時代の渋谷駅で、毎朝、飼い主の大学教授の送り迎えをしていたハチ公。ある日、大学で教授が帰らぬ人となったのちも、毎日、渋谷駅で教授を待ち続けた……その命を終えるまで。そのハチ公物語が海を越え、ハリウッドでリチャード・ギア主演により映画化されたのが本作である。

アメリカ郊外、ベッドリッジ駅。大学教授のパーカー・ウィルソン(リチャード・ギア)は、秋田犬の迷子を拾う。首輪には、漢字の「八」の字。パーカーは犬を漢字の読みのとおり「ハチ」と名づけ、家族の反対を押し切って飼い始める。気高い秋田犬は人間を喜ばせようとはせず、ボール拾い遊びもしようとはしない。だがハチはハチなりの愛し方でパーカーとの触れあいを求め、毎日、駅までパーカーを送り迎えするのだった。ある日、大学でパーカーが帰らぬ人となったあとも……。

ハリウッド映画化。この言葉を聞いたとき、またもやいらぬ心配が脳裏をよぎってしまった。また例のハリウッド“らしく”、ごてごてと過剰な装飾をし、これ見よがしに泣かせよう泣かせようという演出をし、日本の慎ましやかな愛情あふれる物語を台無しにしてしまうのではないか? と。だが、その心配は杞憂に終わった。記者会見でリチャード・ギア自身が語っていたように、映像だけとってみてもそこには確かな質感があり、重み、渋みがある。古くからの日本の精神ともいうべきものが、映像からまるで後光のように滲み出しているのだ。

待つことは愛だともいう。日本の演歌の世界でもこの「待つ」という精神は美徳のように歌われる。ハチにしても、もしあのあと別の飼い主に拾われたら、それはそれでハチの“肉体”は幸せだっただろう。だが、それは恋愛関係で例えるならば浮気であり、一途な愛では決してない。誰にでもなびくというのは、軽くて薄い、吹けば飛ぶような感情だ。
そのような浅さで、僕はあなたを愛していたのではない。
僕はあなただけを生涯愛し続けている。
僕の命が召されるそのときまで、あなただけを愛し続ける。
後にも先にも、あなただけを。
その忠誠心を天国の彼に示すために、ハチはあの生き方を貫き通したのだろう。ただひとりを愛し続けること……とても簡単な、けれどとても尊い尊い愛の形が、ここに確かに示されているのだ。

HACHI 約束の犬(Blu-ray)
リチャード・ギア来日記者会見!
監督:ラッセ・ハルストレム
脚本:スティーヴン・P・リンゼイ
出演:リチャード・ギア /ジョーン・アレン
配給:松竹
ジャンル:洋画

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