パラノイドパーク

まるで一冊の写真集をめくるかのように、息を飲むほどの映像美が繰り広げられていく。そして、その映像が持つ心の声を代弁するかのようにスクリーンを包み込む、繊細かつ豊潤な楽曲群。ストーリーの陰鬱さや悲しみがそこかしこに満ち満ちているからこそ、その美しさは鋭く尖ったナイフの先端のように、観る者の心をこれでもかと言わんばかりに抉っていく。
スケートボーダーたちが自らの手でセメントを流し込んで違法に作りあげた公園、パラノイドパーク。ある夜、この公園を訪れた思春期の主人公は、ふとした偶然からひとりの男性を死なせてしまう。心に大きな傷を負いながら、それでも少年の日常は過ぎていく…。

ストーリーから想像されるようなサスペンスやミステリーの要素はほとんどないため、そういった込み入ったストーリー展開を望んでしまうと肩透かしをくらってしまう。だが、前述したようにその映像美は少年の苦悩に鋭い光を当て、その“影”をとことんまで浮き彫りにする。監督(脚本・編集)のガス・ヴァン・サント(ex.『エレファント』、『サイコ』)と撮影監督のクリストファー・ドイル(ex.『2046』、『恋する惑星』)との究極のタッグがここに極まっているといえよう。

一般的に、映画という表現形態は芸術性というよりはエンターテイメント性が高く、逆に音楽や絵画、小説、俳句などはエンターテイメント性というよりは芸術性の高みを追求する表現形態だ。映画は五感のうちの複数の感覚、すなわち視覚と聴覚で味わうもので、音楽や絵画などは聴覚のみ、視覚のみといった具合に主に一つの感覚のみで鑑賞される(音楽はライブなどのように視覚からも訴える場合もあるので、そのあたりはブレンドされているであろうが)。
本作では映画という表現形態がとられているにも関わらず、あたかも一枚の写真を鑑賞するかのような贅沢な時間の流れを堪能することができる。重要なシーンではあえて台詞ではなく役者の表情のみですべてを表現しているため、より芸術作品の鑑賞という側面が強くなっているのだろう。と同時に、台詞なしにも関わらず役者が何を言っているのか伝わってくるという、映画の表現としての高みにも到達している稀有な作品だ。ストーリーが複雑に絡み合うものだったなら、ここまで芸術として純化した作品には仕上がらなかっただろう。

人間としていちばん犯してはならない罪を背負ってしまった主人公。償うことのできないその出来事が心の皮膚の下で確実に膿んでいく。切開して膿みを出すこともできないから、終わることのない痛みは持続し、増幅するばかりだ。ここまで切実なものではなくとも、誰もが誰にも言えない秘密を持っている。その秘密が美しすぎる映像によって炙り出され、主人公の悲しみとリンクしていく。人の心に衝撃を与えるのは、派手なアクションや込み入ったストーリー展開だけとは限らない。純粋な芸術作品だからこそ、心の奥底を深く深くゆさぶることができるのだろう。

パラノイドパーク(DVD)
監督:ガス・ヴァン・サント
脚本:ガス・ヴァン・サント
出演:ゲイブ・ネヴァンス /テイラー・モンセン /ジェイク・ミラー
ジャンル:洋画
公式サイト:http://paranoidpark.jp/index.html

© 2007 mk2