ハイクラスなレストランでディナー。むしろ、そのデザートをキャンセルして上質のお酒をいただきに訪れたいバーがある。それが「ドンナ・セルバーィカ」だと人づてに聞いたからには、バッカスとしては行かずばなるまい。
店に一歩、足を踏み入れたとたんに漂う雰囲気。カウンターが6席、テーブル含めても14席だが、全面ガラス張りなので開放感がある。コンクリート打ちっ放しの壁面と木のカウンターやシックで年代ものの調度品との絶妙なバランス。スミからスミまでに1級建築士でもあるオーナーのテイストとこだわりが浸透している。
「ドンナ・セルヴァーティカ」のウリは、コニャック。それも、シングル・コニャックと呼ばれるコニャックが充実しているのだ。
コニャックとは、フランスのコニャック地方で作られているブランデーのこと。コニャックと名乗るには、ブドウの種類や栽培方法、蒸留や熟成方法に基準が設けられており、高級ブランデーという位置づけのお酒だ。そして、シングル・コニャックとは、ブドウの栽培から蒸留、熟成、瓶詰めまで、すべての工程を1カ所で行ったコニャックを意味する。シングルモルトウィスキーは、1カ所の蒸留所で作られたものを指すが、シングル・コニャックはそれをはるかに越えるシングル度合い。その分作り手のこだわりが半端ではないのだ。シングル・コニャックはプロプリエテールとも呼ばれ、反対にブドウをブレンドしたりするのがネゴシアンと呼ばれる。かの有名なヘネシーやカミュといったブランドはこれに入る。
オーナーの古屋敷さんオススメの1杯目は「Jean Fillioux Reserve Familiale」。シングル・コニャックの代表格ジャン・フィユーの中でも、50年以上熟成させたもの、バニラのような上品な香り。一口含むとフルーティーでまろやかな風味が口に充満し、飲み込むと桃の香りが返ってくる。バカラの瓶に入ったヘネシーのリシャールに通じる味わい。リシャールは格安店でも20万円を超える超高級コニャックだが、こちらは10分の1とリーズナブル。ジャン・フィユー家は、ヘネシーのマスター・ブレンダーだったという経歴を知ると納得。
2口目。幸せすぎる。あらゆるストレスが癒され、世界は目の前のグラスだけになる。ウィスキーのような「酒を飲んでる!」という感じではなく、極上のデザートを頂いているような感覚だ。人づてに聞いた話の真実を知りたり!
2杯目はポールジローのエクストラ・ヴュー。2007年に瓶詰めされた日本限定品で、25年熟成。甘めで大好きな味だが、他の25年ものよりも長く熟成しているようなイメージがある。ジャン・フィユーと比べるとフレッシュな感じだが、決してアタックが強いわけではない。
ポールジローのオートヴィーというのも飲ませてもらった。こちらは、ポールジローの熟成前に瓶詰めした製品。コニャックは70度以上で熟成するという条件があるので、当然度数は71度と高い。しびれる刺激だが、これがエクストラ・ヴューのような味わいになると考えると、しみじみと時間の重みが感じられる。
店自慢のフレッシュチョコレートをプレートに盛ってもらい、カカオの講義!?を受ける。コニャックはむろん、チョコレートに限らず、家具調度の話しからサービスデッシュのからつきアーモンドやレーズンパンに及ぶ古屋敷さんのこだわりの薀蓄話もまた酒の味わいに華を添える。もちろんカカオ100%のビターなチョコとコニャックの相性は最高。シガーにもぴったりだ。
お代わりは、ピエール・フェランの45年熟成「PIERRE FERRAND ABEL」と張り込んだ。まろやかで一切の雑味がない。強烈なパンチの酒を飲んだ後だが、ゆっくり味わっていたら、また引き込まれた。
すばらしいコニャックを堪能した後、古屋敷さんは1本の瓶をとり出した。まるで愛娘を紹介するかのように勧めてくれたのはアイラウィスキーの「ボウモア」。な、なんと、ダンカンテイラーの60年代もの「Piares BOWMORE 1966」。
驚きの1966年!
仕入れ値が半端でないので、ショットの価格1万2000円なり。むしろ年代ものの割には比較的安い。だが、我が財布には……。
後ろ髪を引かれながら、ボウモアは次回の楽しみにして、店を後にした。
【Donna Selvatica】
ドンナ・セルヴァーティカ(野生の女の子の意)
東京都渋谷区神南1-3-3
サンフォーレストモリタビル4F