粋にモダンに、そしてキリリと着物――着物はかつて日常の一部だった

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浴衣の季節がやってきた
「ゲイシャスタイル!」「エキゾチック。素敵!」
海外で着物姿を披露すると、たいてい絶賛の嵐だ。
でもこんな声も時々聞こえてくる。
「窮屈そう。なんだか封建的な服ね」
「素敵」とほめられてつい「ゲイシャ」きどりしてみるが、「封建的」とはなんとなく納得がいかない。着物って本当に「封建的」な服なんだろうか? さっそく着付けを習ってみることにした。

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こんな華やかな着物もいいなあ
実際に着物を着てみると、予想に反してかなり合理的な服であることに気付いた。まず仕立てがシンプルである。襟元など着方を少し変えるだけで、目の錯覚を利用してしっかり体型のカバーができる。着物、帯、帯締めや帯上げなど布やひもを組み合わせることで、さまざまな色の組合せを楽しめる。さらに、着古した着物は解体して、バッグにしたりとリサイクルもできる。

もちろん着物の奥の深さも見逃せない。着物をめぐる語りは、それだけで小説にもなる。幸田文『きもの』では、着物をめぐって主人公「るつ子」の人生が語られる。明治が終わるころに生まれた主人公のるつ子は、「お母さん」に着せられた着物の一枚一枚と、るつ子の相談役でもあった「おばあさん」の目を通して、時代とともに成長していく。

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さっそくリサイクル
着物は活動性に欠けるとか温度調節しにくいという苦情も聞こえてきそうだ。こんな「封建的」イメージにつながるような現代人の都合も、「おばあさん」の言葉やるつ子の感覚ですっかり解消された。

「襷は紐一本だし、前掛けはたったひと幅の布だよ。でもまあ、襷にしろ割烹着にしろ、働く仕度をすれば働く気になるものさ」
「手拭いゆかたの洗いざらし。軽く、しなやかで、るつ子の思うままになる。どんな運動にもさわりにならないし、夏の着物の中ではいちばん涼しかった。しなやかな布地なのに洗濯した後は、肌に心地いい適当な固さがつく」

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幸田文に学べ!
着物はかつて日常着だったのだ。『きもの』を読むと、着物が女性の心身そのものであったことがわかる。それは、現代のファッションが女性の関心の大きな部分を占めているのと同じだ。
最近では、アンティーク着物やリサイクル着物がブーム。従来の約束事にこだわらず洋服感覚で着る人が増えた。洋服地で着物や帯を作ったり、洋服と重ね着したり、足下にパンプスやブーツを履いたり、帯上げにレースを使ったりと様々だ。

これから浴衣の季節。粋にモダンにそしてキリリと浴衣から挑戦してみたい。
でも……。
いくら着物が素晴らしいからって、「日本のビジネスマンも着物を着るべきだ」というイタリア人の友人の意見には賛同しかねるのだが。