アラシータでの出会い――クランデーラと願いを叶える小物たち

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アンデスの帽子チューヨを被ったちょび髭のエケコ
ペルーとボリビアをまたぐアルティプラーノ (標高4000m前後のアンデス高原地帯)で信仰されている人型をした神様、エケコ。見た目は神様というよりただの陽気なオジサンだか、その持ち物にご注目。お札や食料品、家や車のミニチュア、愛を司る心臓の模型まで首に下げ両手を広げて笑う姿は、まさに何でも来いの福の神だ。このエケコに出会えるのが、「アラシータ」の市。ここでは家や車のほかにさまざまな種類の商店や雑貨、旅行カバンや各種免許証など、ありとあらゆる品物のミニチュアが売られている。そして「家を購入したい」「商売繁盛」などの願いをこれらに託し、クランデーロと呼ばれる呪術師に祈祷してもらう。

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札束の上にはお金の象徴である カエルと車まで乗っていた。
どうか彼女の願いが叶いますよう
ある日、アラシータでクランデーラ(女性の場合は語尾が「ラ」になる)とやり取りしている女性を見かけた。「お金持ちになりたい」という彼女が選んだのは、おもちゃのドル紙幣の分厚い束。とても直接的でよろしい。

彼女のように願いが具体的な場合はその願いを表したミニチュアを選べばよいが、「とりあえず全部まとめて!」という向きには、エケコが人気らしい。私もエケコを買おうと物色したが、どうも手ごろな大きさのものがない。迷っている気持ちを見透かしたのか、先のクランデーラが「これもエケコと同じよ」と三角錐の置物を薦めてきた。中にはお金をくわえたカエルが鎮座している。カエルはお金の神様なのだ。ほかにも家や車、お札、食料品などがちまちまと飾られている。男女の人形も入っており、愛のお守りとしても使えるらしい。

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どんな車種の車が欲しいか、どんな家に住みたいか。
自分の夢を具体的に表したミニチュアを探すのも一興だ
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ドル札、ユーロ札、そしてペルーのソーレス札もあり。
しかし残念ながら円は発見できず
購入が決まると、クランデーラの祈祷が始まった。聖水という名の怪しい液体を私と置物に振りかけ、香を焚く。その煙に置物をかざしながら祈りを奉げるのだが、ここで大事なのは祈祷を願う者の名前を唱えることだ。「Keiko Keiko」とぶつぶつ唱えるクランデーラ、同時に「健康」「金」「愛」「仕事」「平和」などの言葉をつぶやいていた。体内のマイナスエネルギーを取り去るという『 アルマジロの剥製』を私にかざして上下させ、最後に小さな色紙を花びらのように振りかけつつ、ちりんちりんと鐘を鳴らして祈祷が終わった。

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呪文を唱えながら香を焚き、煙に願いを託して空へと送る
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ちりん、ちりんっ!
アラシータのあちこちで、鈴の音が響いていた
何やら悪いものが取り払われたのか、なんとなくだが清々しい気分である。通りすがりのおじさんにまで「よかったな。これであんたも金持ちだ」と言われ、余計嬉しくなってしまった。ふふふ、これで私に素晴らしい幸運が訪れること間違いなし! クランデーラにお礼をいい、10ソーレス(320円)というずいぶんお手ごろな幸せ代を払って家路についたのだった。