「愚為庵」母屋
「茅葺き屋根の下でとれたての野菜がいただける」、そんな文句に惹かれ、千葉県の御宿まで行って来た。千葉県ごときで「はるかなる出会いの旅」とはおおげさな、と思われた方。カナダに常住の私にとっては千葉県は1万km離れた地。超はるかなる旅なのだ!
実家のある東京から連休の渋滞にもまれ、道にも少し迷って到着したのが農家食事処「愚為庵」。農地の中にたたずむこのレストランは地図なしでは見つけられない隠れ家的な存在だ。敷地内に入ると、まずりっぱな茅葺き屋根に目を奪われる。レストランになっているこの母屋は二百年以上前に建てられた歴史のあるもので、屋根の葺き替えは十数年前に行なわれたそうだ。中には昔ながらの土間や囲炉裡もあり、40畳ほどの広々とした畳の座敷には40ほどの席が設けられている。
今回私たちが頼んだお料理は春の膳五千円コース。先付けからデザートまでフルコースの懐石料理だ。まず先付けには小さな前菜が10品ほど。そのうち私が「おおっ」と思ったのは椎茸のお刺身。ただ生の椎茸にわさび醤油をつけて食べるというシンプルなものだが、椎茸が新鮮でみずみずしく、香り高い。椎茸農家でもある愚為庵ならではのものだろう。
先付け。右下が椎茸の刺身
タケノコの香味焼
見た目はとことんシンプル、筍の刺身
その後のお料理はとにかく筍三昧。筍のグラタン、刺身、香味焼、炊き合わせ、汁物、揚げ物、ごはん。まさにタケノコのオンパレードだ。私の一押しは香味焼。土間の炭火で筍をまるごと皮ごと焙って味噌をつけたもので、とても香ばしく、とことんジューシー。筍の刺身は生なのにえぐみがなく、ほんのり甘い。これは一食の価値あり。カナダもカルガリーに住んでいると新鮮な筍は大枚をはたいても手に入らない。そんな私にとって筍は宝石のような存在。しかもここのタケノコは自家の農園からとって来たばかりの新鮮なもの! さまざまな味に彩られた地の宝石を心ゆくまで堪能した。
去年からの生き残り、セミのぬけがら
食事が終わった後は手作りの苺ムースと珈琲でまったり。障子越しには新緑と鳥の声。畑からそよいでくる風は爽やか。ついウトウトしてしまうようなゆったりした時間。庭に出ると昼寝中のアヒルの赤ちゃんや、去年からずっとそこにあったであろう、セミの抜け殻を発見。農家での食事は体も心も潤してくれるようだ。
カナダでも地元で取れた食材を食べようと地産地消の「ローカルフード」がもてはやされているが、自家農園で採れた野菜のおいしさをあますところなくいただく、これほどのローカルフードはないだろう。
究極のローカルフードとの出会いは、四季を大切にする日本の良さとの新たな出会いでもあったのだった。
『愚為庵』のサイト。メニューも見ることができますよ。
http://www.daichi.nu/guian/guian.htm