見事な美声に惚れぼれ。スルコ区オーケストラの面々
4月のある土曜日の午後。自宅で寛いでいると、鮮やかな音色と朗々と響く歌声が外から聞こえてきた。最初はどこかの家でパーティでもしているのだろうと思ったが、それにしてはずいぶんと近くからのようだ。しばらく家の中で聞いていたが、やっぱり気になりアパートを出た。
家の窓からは木立に遮られてよく見えなかったのだが、実はうちのすぐそばの公園で行なわれていたイベントだった。「フェスティバル・スルカーノ(スルコ区民祭り)」と命名されたこの祭りは、区所属のオーケストラやプロのダンサーたちが、無料でムシカ・クリオージャ(ワルツとフォルクローレが融合したペルー海岸地方の音楽)や踊りを楽しませてくれるものらしい。土曜日ごとに区内の公園を順番に回っているそうで、この日がたまたま我が家のすぐ近くの公園だったのだ。
ペルー北部海岸地域の「マリネラ」は
とても美しい踊りだ
音楽だけではなく、男女の恋の駆け引きを表現する官能的な踊り「マリネラ」や、アマゾン地域の踊り「アナコンダのダンス」なども披露された。木漏れ日の中、自由にのびのびと踊る若いダンサーたちを見ていると、ここが家から目と鼻の先ということをつい忘れてしまう。日常生活の中でこんな素敵なイベントにいとも簡単に出会えるとは、なんと幸せなことだろうか。週末のひとときを伝統音楽に浸りながら過ごすなんて、大人の文化だなぁ……なんて思っていたが、最後はやっぱりペルーらしかった。
まずは区民の皆様に、区からささやかなプレゼントが贈られることに。妙にテンションの高い司会者が登場し、「さーて、みなさん! 今日が誕生日という方はいますか?」と、舞台の上から声をかけた。数人が即座に手を上げたが(「誕生日」という言葉に命をかけるペルー人らしい反応だ)、身分証明書が必要と言われその手を下ろした。「おや、誰もいない?では、昨日誕生日だった人は?明日誕生日の人もいないの?」と司会者も焦りだす。最後にはなんでもいいから反応してくれという感じで「じゃあこのプレゼントが欲しい人!」と叫んだ。するとみんながわっと手を上げ、なんだかもうただのくじ引き大会のようになってしまった。先ほどまでのアカデミックな雰囲気はどこへやら。いやはや、やっぱりペルーは楽しい。
これはもちろんオモチャだが、現地では本物の
アナコンダを掴んでいる……かもしれない
ペルー人は心行くまでイベントを楽しむ天才だ
子供が主役かお姉さんが主役か……
仕上げは「子供ショー」だ。舞台には「アニメショー」か何かと勘違いしたような衣装のお姉さんが登場した。そのぴちぴちというかむちむちとした衣装は、爽やかさより色香が優っている気もするが、当の子供たちは気にすることもなく、飛んだり跳ねたりとても楽しそうだ。
秋の夕暮れは肌寒く、軽装だった私は早々に退散したが、この催しは夜まで盛況だったようだ。今度こうしたイベントがあったら、きちんと準備して出かけたい。次の楽しい出会いを求めて、私はスルコ区のウェブサイトから夜通し新しいイベントを検索している。