秋の日は踵落とし


091207_01.jpg
現代の魔窟「あるてま」

「秋の日は釣瓶(つるべ)落とし」という言葉をごぞんじだろうか?
釣瓶(=井戸の水をすくう滑車型の桶)を井戸に落とすのと同じくらい、急速に秋の日が暮れるといった意味らしいが、その言葉を知ったのは、つい最近。
ある秋の夕暮れ時に、友人と飲みに出かけた事がきっかけだった。

高田馬場駅から歩いて1分。
地下一階に拡がる、ダイニングバー「あるてま」。

このお店の売りはオーナー特製、怪しげな名前のオリジナルカクテル。何か悩みがありそうな様子の友人の、気分をほぐすのに良いかと思ってのチョイスだが、吉とでるか凶とでるかはわからない。

まぁ笑ってもらえればいいだろう。


091207_03.jpg
だっ、団地妻というカクテルをお願いします

早速メニューを開くと、相変わらず怪しい名前の料理やカクテルの数々。
ちなみに今までで一番ぐっときたのは、
「レオタード男爵」
といういかにも変態な名前のカクテルなのだが、いまだに顕在だった。オーダーするのもある意味、羞恥責めなメニューが目白押しだがその中でも一際、私の心をつかんだカクテルが、
「秋の日は踵落とし」
かっ、カカト落とし!?

その瞬間、私の脳内は妄想モードに突入した。
小学生時代、同級生の男の子に、戯れにライダーキックを食らわせたときのこと。
以前、自転車にのった不審者から痴漢にあい、自転車ごと蹴倒したときのこと。
上海駐在時代に、理不尽に乗車拒否をしたタクシーに渾身の蹴りを入れ、運転手と罵りあいになったときのこと(意外とバイオレンスでごめんあそばせ)。
蹴りにまつわるいろんな思い出が、走馬灯のように脳裏を駆け巡った。

迷わず、踵落としを注文!


091207_02.jpg
カクテル「秋の日は踵落とし」

間もなく出てきたそれは秋を意識してか、数種類の栗と卵のリキュールをブレンドした物だった。飲み口は甘いのに、妙に苦味ばしった後味がアルコール濃度の高さを物語っている。
弱めに作ってもらい、さらにチェイサーを頼んだにもかかわらず脳天に踵落としを食らったかのよう、したたかに酔っ払った。

起きるとひどい頭痛だったが、ふと思い付いて「釣瓶落とし」を辞書で引いてみた。……なるほど、釣瓶を落とすように急速に酔う、という解釈で良さそうだ。飲むついでに日本語まで勉強できるなんて、なんだかお得。ネーミングは変だが、なかなか奥の深いカクテルもあるものだ。
しかしまあ、踵落としの効果は未だ覚めやらず。再びベッドにもぐり込み昼近くまで堕眠をむさぼった。

あ。
そういえば。
友人の悩みは晴れたのだろうか。